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AIで仕事を変える2026年10月11日

「AIで何をしたい?」に答えられない社員へ、先に聞く3つの質問

「AIで何をしたい?」と聞いた瞬間、会議室が静かになる

社員を集めて「うちもAIを入れようと思う。何に使いたい?」と聞く。返ってくるのは沈黙か、「議事録とか……」という曖昧な声だけ。話はそのまま流れて、契約したAIの画面は、そのうち誰も開かなくなります。

最近、AIの導入を手伝う側に向けた、ある意見が広く読まれていました。相手に「AIで何をしたいか」を聞くのではなく、日々の業務の中身や面倒な作業を細かく聞くべきだ、という主張です。業界と職種の組み合わせで困りごとの型が見えてくる。相手が知らない珍しい道具より、相手がすでに知っている定番の道具を選ぶべきだ。そんな意見も並んでいました。

反響が大きかった理由ははっきりしています。「AIで何をしたい?」と聞かれても答えられない現場の実情を、そのまま言い当てていたからです。

これは、導入を支援する人だけの話ではありません。自社にAIを入れようとしている経営者や、部署で旗を振る立場の勤め人にも、同じことが起きています。社員にやる気がないわけではないのです。答えようのない問いを渡されて、困っているだけです。

僕は『レベルファイブAI経営マスタリー』という講座を開き、毎月1回、対面のAI合宿も続けています。講義で繰り返しお伝えしているのは、AIでつまずく根っこは道具の知識ではなく「言語化の力」だということ。つまり、自分の仕事を狙ったとおりの文章にする力です。

「何をしたい?」という問いは、この言語化を、いきなり社員本人に丸ごと求めてしまいます。だから答えが出てこない。今日は、AIの話をする前に聞くべきことと、聞いたあとに任せる順番を、そのまま試せる形でお渡しします。

業務を細かく聞くと、AIに渡す「前提」が集まる

なぜ「何をしたい?」は空振りするのでしょうか?

AIで何ができるのかを知らない人に、AIの使い道を聞いても答えは出ません。たとえるなら、初めて入った料理店で「何でも作れますよ」とだけ言われるようなものです。メニューがなければ、人は注文できません。

一方で、「毎日やっていて面倒な作業は?」と聞かれたら、たいていの人は答えられます。受注メールの中身を、毎朝表に打ち直している。先月の見積書がどのフォルダにあるのか、毎回探し回っている。自分の仕事の話なので、言葉が出てくるのです。

ここに、導入の分かれ目があります。

僕は講義で、AIの活用を5つのレベルで説明しています。レベル1と2は、AIに聞く、AIと一緒に作る段階。レベル3から5は、任せる、連携させる、自律させる段階です。1・2と3以上の間には、大きな段差があります。仕事を任せるには、どんな作業を、どんな順番で、どこまでやってほしいのかを書いて渡さなければならないからです。

AIに渡すものを、僕は3段で考えています。1段目は目的や判断の基準。2段目は仕事や商売の文脈、つまり「前提」。3段目は、うまくいった手順です。業務の聞き取りで集まるのは、このうち2段目の前提にあたります。前提を持たないAIは、どの会社にも当てはまる一般論しか返せません。

業界と職種の組み合わせで困りごとの型が見える、という話もここにつながります。同じ業界の同じ職種なら、転記や探し物の場面は似てきます。ひとりの書き出しが、隣の席の人のヒントになる。聞き取りを重ねるほど、会社全体の前提が厚くなっていきます。

道具を定番に寄せるべきだという意見も、同じ理屈で納得がいきます。見慣れない道具の操作を覚えることに力を取られると、肝心の業務の言語化まで手が回りません。社員の頭は、新しい画面ではなく、自分の仕事のほうに向けておきたいのです。

今日そのまま試せる3つの手順と指示文

手順は3つです。

1つ目。社員に、次の3つを書き出してもらいます。「1日の中で面倒だと感じる作業」「ある場所から別の場所へ転記している作業」「探し物に使っている時間」。この段階では、AIという言葉を出さなくて構いません。紙でもメモアプリでも、本人が使い慣れたもので十分です。

2つ目。集まった書き出しをAIに渡して、整理させます。次の指示文を、そのままコピーして使ってください。

「これから、社員が書き出した『面倒な作業』『転記している作業』『探し物に使っている時間』の一覧を貼ります。作業ごとに、頻度(毎日・毎週・毎月)、関わっている人数、いま使っている道具の3点を表にまとめてください。そのうえで、間違えても元に戻せる作業を3つ選び、AIに任せる最初の候補として、理由を1行ずつ添えてください。書き出しに書かれていないことを推測で補った場合は、その欄に『推測』と書いてください。」

大事なのは最後の一文です。前提が足りないとき、AIは足りない部分をもっともらしく埋めてきます。どこが推測なのかを見える形にしておけば、聞き取りのやり直しも短く済みます。

3つ目。候補の中から1つだけ選び、実際に任せます。最初は「消えても困らない1つのフォルダ」から始めてください。探し物の多い職場なら、ファイル名をそろえる仕事が入口に向いています。講義の第1回でお伝えしている頼み方を、指示文にするとこうなります。

「このフォルダの中のファイル名を『日付_取引先名_書類の種類』の形にそろえてください。実行する前に、変更前と変更後の対照表を作成して見せてください。こちらが確認して『実行して』と伝えるまでは、何も変更しないでください。ファイルは削除せず、移動だけにしてください。」

対照表を先に出させると、気になる行だけ直してから実行できます。元のファイル名を失う心配もありません。「削除せず移動」の一言は、万が一の取り違えに備える保険です。

ここまでで、AIに一つの仕事を任せる流れを社内で一度体験できます。書き出してから実行まで、新しい道具を覚える必要はどこにもありません。

僕なら、最初の1週間はAIの話をしない

AIを入れると決めると、つい道具選びから始めたくなります。けれども順番は逆です。先に業務を聞く。書き出しをAIで整理する。消えても困らないところから1つ任せる。道具は、そのあとで社員が使い慣れたものを優先して選ぶ。

僕なら、最初の1週間は社内でAIという言葉を使いません。「面倒な作業」「転記」「探し物」の3つを書き出してもらうことだけに集中します。答えやすい問いから入れば、書き出しは自然に集まってきます。そして集まった現場の言葉が、そのままAIに渡す前提の材料になります。

1つ任せられたら、自分たちがいまどの段階にいるのかを確かめてください。講義では、問いを順に自分へ投げていく方法をお伝えしています。たとえば「AIに質問したことがある」「複数のAIを使い分けている」「自動で実行されるタスクがある」。Yesが続いた最後の問いが、いまの現在地です。そこから、次に越える壁を1つだけ決めます。

レベル3から4へ進むときの壁は、「個人の効率化」から「組織の設計」への切り替えです。ひとりの書き出しが部署の書き出しになり、部署の手順が会社の手順になっていく。業務を聞くことから始めた会社は、この切り替えにも無理なくつながります。最初から組織の材料を集めているからです。

僕はエンジニア経験ゼロのまま、自分で設計図を書き、48時間でAI経営本部を組み上げました。手元にあったのは高度な技術ではなく、自分で書いた設計図です。自分の仕事を言葉にすることが、AIに任せる第一歩になる。その実感は、いまも変わっていません。

AIは、使うものではなく、育てるものです。育てるための最初の材料は、最新の道具ではありません。社員が書き出した、毎日の面倒な作業の一行です。今日の会議では「AIで何をしたい?」の代わりに、「いちばん面倒な作業は何ですか?」と聞いてみてください。

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