10月8日、アメリカのAI株が一斉に下がり、ブロードコムもこの日4%あまり下がりました。AI半導体の見通しは2年で約4倍なのに、株価は最高値から約3割安い。専用チップの「設計請負人」ブロードコムは、エヌビディアの次の本命になるのか? 明日の株価ではなく、5年後・10年後の目で考えます。
この記事の結論
結論を先に3つお伝えします。1つ目。5年以内に、エヌビディアの1強が崩れるとは、僕は見ていません。ただし、AIが「答えを出す」場面では、専用チップが伸びていくと考えています。
2つ目。その専用チップの主役、ブロードコムは、見通しが4倍なのに、株価は最高値から約3割安い。市場は、売上の「量」ではなく「質」を疑い始めています。
3つ目。ブロードコムが追いつかれる可能性は、5年以内は低い。10年後は分かりません。見るべきは、お客さんの設備投資と、利益率です。
OpenAIのために500億ドル? 半導体の会社がお金を手配する不思議
10月8日の下落の前の日、アメリカの経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、ブロードコムがOpenAIの専用チップのために、500億ドルを超えるお金の手当てをしていると報じていました。半導体の会社が、お客さんのためにお金を手配する。少し不思議な話です。
いま、「エヌビディア1強を揺るがすのは、GoogleのTPUのような専用チップではないか?」という声が広がっています。この記事では、この専用チップの流れが5年後、10年後にどうなるのか? そこを考えます。
エヌビディアのGPUは万能ナイフ、専用チップは専用ナイフ
AIの半導体には、大きく2つの種類があります。1つは、エヌビディアのGPU。僕はこれを「万能ナイフ」と呼んでいます。何にでも使えて、すぐ手に入る。そして、世界中の開発者が慣れているCUDAというソフトの仕組みがある。これがエヌビディアの強さです。
もう1つが、専用チップ。こちらは「専用ナイフ」です。GoogleのTPUのように、決まった仕事だけを、速く、安く、少ない電気でこなすために作られたチップです。
万能ナイフは何でも切れます。でも、毎日同じものを大量に切るなら、専用ナイフのほうが速くて安い。AIの世界で、いまこの「毎日同じものを大量に切る」場面が、急に増えているんです。
なぜ今、専用チップなのか? 「学習」と「推論」の違い
AIの計算には、2つの場面があります。AIを育てる「学習」と、育ったAIが答えを出す「推論」です。学習は、毎回やり方が変わる実験の連続なので、何にでも使えるGPUが向いています。ところが推論は、やることが決まっている計算なので、専用ナイフの強みが出やすいんです。
そしてAIを使う人が増えるほど、推論は爆発的に増えていきます。ChatGPTやClaudeに質問するたび、AIエージェントが仕事をするたびに、推論が動いているからです。
だから、Googleは自社のTPUを、OpenAIはJalapeñoという推論専用のチップを、Metaは自社のチップを作っています。そして、この専用チップの多くを裏で設計して形にしているのが、ブロードコムです。
ブロードコムは何をしている会社か? 専用チップの「設計請負人」
ブロードコムの役割をひと言で言うと「設計請負人」です。お客さんと一緒に専用チップを設計する。その設計を工場で大量に作れる形にする。そして何万個ものチップを、高速の通信でつなぐ。この3つです。
Googleとは10年以上、TPUを一緒に作ってきました。2031年までの長い契約もあります。AnthropicやOpenAIも、大口のお客さんです。
2026年の5月から7月の決算では、売上が前の年より86%増え、AI半導体の売上は3倍を超えました。会社自身の見通しでは、AI半導体の売上は2026年度の580億ドルから、2028年度には2,300億ドル。2年でおよそ4倍です。
見通しは4倍なのに、株価は3割安。市場が疑う「質」の3つ
これだけ伸びる見通しなのに、ブロードコムの株価は、6月の最高値495ドルから、10月8日は360ドル。約3割安い水準です。市場が、売上の「量」ではなく「質」を疑い始めたからだと、僕は見ています。
1つ目は利益率です。チップだけでなく、サーバーの棚、ラックごと売る形が増えると、利益率は下がっていきます。2つ目はお客さんの偏りです。上位5社で、売上のおよそ半分を占めています。
3つ目が、いちばん大きい。お客さんの支払いを、ブロードコム自身が保証する仕組みが出てきたことです。
チップの会社が、お客さんの連帯保証人になった
ブロードコムは、お客さんがチップを借りて使えるように、お金の仕組みを用意しています。その中で、お客さんの支払いを最大で約290億ドルまで保証しています。僕はこれを「チップの会社が、連帯保証人になった」と呼んでいます。OpenAI向けの500億ドルの報道も、この流れの延長にあります。
思い出すのは、2000年ごろのシスコです。当時、通信機器の会社はお客さんにお金を貸して、自社の機械を買ってもらいました。お客さんがつまずいたとき、その貸したお金ごと、大きな損失になりました。
では、ブロードコムも同じなのか? 伸びるはずの会社がお金を払えるようになるまでの「時間差を埋める仕組み」なのか? それとも、苦しいお客さんの「延命」なのか? 今の時点では、どちらとも言い切れません。だからこそ、市場はここを疑っているんです。
エヌビディア1強は崩れるのか?
大事なのは、比べる場面を間違えないことです。学習の場面では、GPUがこれからも中心だと僕は見ています。推論の場面では、専用チップのシェアが上がっていくと考えています。
つまり、これから起きるのは、エヌビディアが倒れることではありません。「1本の万能ナイフの時代」から、「万能ナイフと専用ナイフを使い分ける時代」への移り変わりです。エヌビディアもそれを分かっていて、自社のつなぐ仕組みに他社のチップも参加できるようにし、お客さんを自分の輪の中にとどめようとしています。
同じ製品を出すことと、同じことができることは、違います。どの場面で比べているのかを分けて見る。これが、AIの半導体を見るときの基本です。
ブロードコムは追いつかれるのか? 5年と10年で分けて考える
専用チップの中でも、ブロードコムには3つの方向から追っ手がいます。マーベルやMediaTekなど同じ設計請負の会社、エヌビディアやAMDの汎用のGPU、そしてお客さん自身の内製化です。GoogleはMediaTekとも組み始めました。
僕の答えは、「5年以内に追いつかれる可能性は低い。10年後は分からない」です。設計だけでなく、大量に作る経験、部品の組み立て、通信まで、まとめて任せられる相手は、当面いないからです。GoogleがMediaTekと組んだのも、ブロードコムを切ったのではなく、取引先を広げているのだと見ています。
ただし、AIを使ってチップの設計はどんどん速くなっています。OpenAIは、9か月で設計をまとめました。一年ごとの変化は小さくても、10年積み重なれば、構図は変わります。
AIの天井は、需要ではなく供給
見落とされがちな点があります。今、AI半導体の売上の天井を決めているのは、需要ではなく「いくら作れるか」です。台湾のTSMCの最先端の工場、チップを積み重ねる技術、高速のメモリ、基板、光の部品。どれも足りていません。この不足は、2027年ごろまで続くと僕は見ています。
だからブロードコムは、シンガポールに基板の工場を作り、光の部品の工場を3倍以上に増やしています。作る力を押さえることが、そのまま競争力になる時代です。
強気の見方と弱気の見方、見立てが崩れる3つの条件
強気の見方です。AI半導体の売上は2年で4倍の見通しで、会社は実際の需要はそれ以上だと言っています。解約できない複数年の受注が約1,800億ドルあり、売上の46%が手元に残る現金という、現金を生む力の強さもあります。
弱気の見方です。お客さんが上位5社に偏っています。ラックごと売るほど利益率は下がります。お客さんの支払いを保証していて、AnthropicやOpenAIは資金集めに頼っています。そしてCEOのホック・タンは74歳前後で、後継者はまだ決まっていません。どちらに転ぶかは、今日の時点では誰にも分かりません。
僕の見立てが崩れるのは、大手のクラウド4社の設備投資の合計が前の年より減ったとき。お客さんの支払いの保証が実際に使われて損失が出たとき。利益率が今より大きく下がったまま戻らなくなったとき。決算のたびに、この3つを確かめていきます。
まとめ
エヌビディアの1強は、すぐには崩れません。ただ、AIが答えを出す推論の場面では専用チップが伸び、その裏方のブロードコムの存在感は増していくと僕は見ています。一方で、見通しが4倍でも、株価は3割安い。事業が成長しても、株価の上昇が約束されるわけではありません。2000年のシスコは、その後も事業は伸びたのに、株価は20年以上、当時の高値に戻りませんでした。
だから見るべきは、売上の量ではなく、利益率と、お金の回収の確かさという質です。5年後、10年後に企業価値を大きくしているのは、話題の中心にいる会社ではなく、作る力とお客さんを、自分の力で押さえ続けている会社だと、僕は考えています。詳しい話は上の動画でお話ししています。


