この秋、AIは質問に答える物知りな道具から、僕たちの代わりに動く秘書になろうとしています。AIエージェント(AIの秘書)の座を握るのはどこの会社なのか? そして、それは僕たちが投資している会社の稼ぎ方をどう変えるのか? 決算の数字を手がかりに考えます。
AIエージェント(AIの秘書)とは何か?
まず言葉をそろえておきます。これまでのAIは、聞かれたことに答える存在でした。ChatGPTに質問すると、文章で答えが返ってきて、そこで終わりです。「おすすめのバッグは?」と聞けば、AIの画面の中で答えてくれる。そういう道具でした。
AIの秘書、英語で言うAIエージェントは違います。答えるだけではなく、目的を伝えると代わりに動いてくれます。メールを書いて送る、予定を入れる、店を比べて注文する、使っていない月額課金を見つけて解約する。人間の秘書に頼むような仕事を、メール・カレンダー・買い物・支払いとアプリをまたいでこなしてくれるのです。「250ドル以下で一番いいバッグを買っておいて」と頼めば、それを実行してくれます。
ここが投資家にとって大事な点です。AIが代わりに動くと、人間がGoogleで検索したり、Amazonのページを眺めたり、Instagramの広告を見たりする回数が減るかもしれません。ネットの入り口そのものが入れ替わる可能性があるということです。
9月に出そろったMuse・新しいSiri・Dots・Alexa+
9月8日、Metaが「Muse」を米国とカナダで公開しました。買い物・予約・解約までこなす個人向けの秘書AIで、無料のほか、月20ドルと月100ドルの有料プランがあります。
9月14日には、Appleが新しいSiriを発表しました。メッセージやメール、写真の中身を理解して、アプリをまたいで操作します。英語の試用版から始まり、10月には日本語にも対応する予定です。9月29日には、OpenAIが「Dots」を発表しました。利用者が決めた目標を、裏で動き続けてこなす「常に起きている秘書」で、ChatGPTの最上位プランと企業向けの上位プランで使えます。
Amazonも「Alexa+」を米国で全員に提供し始めています。プライム会員は無料、それ以外は月額19.99ドルです。なお、9月30日に発表されたGoogleの「Gemini 4 Argon」は、プログラムの修正やサイバー攻撃への防御など、企業の仕事向けのAIです。個人の秘書の話とは分けて考えます。
勝負を決める3つの条件(入り口・文脈・行動)
AIの秘書は、どこも賢くなっていくはずです。頭の良さだけでは、もう差がつきにくい。では、何で決まるのでしょうか? 僕は次の3つだと見ています。
1つ目は入り口です。毎日、最初に話しかけられる場所にいるか? スマホを持った瞬間に最初に呼び出すのは、iPhoneならSiri、AndroidならGeminiです。人は一番手前にあるものを使います。2つ目は文脈です。その人のことを、どれだけ知っているか?「来週の出張、いつもの感じで手配しておいて」と頼めるのは、メールも予定も好みも知っている秘書だけです。
3つ目は行動です。お金が動く場所に手が届くか? 最後に注文して、支払うところまで行けるか? ここでお店側が「AIはお断り」と言えば、秘書は止まってしまいます。
Apple・Google・Meta・OpenAI・Amazon・Microsoftを並べると
Appleの入り口はiPhone・Mac・時計そのものです。メッセージや写真、メールを端末の中で理解し、アプリをまたいで操作します。ただし頭脳はGoogleのGeminiと共同です。Googleの入り口はAndroidとGeminiアプリで、月に9.5億人が使っています。文脈はGmail・カレンダー・検索の履歴、行動では検索広告の強さがあります。ただし、秘書が自分の稼ぎを食う恐れも抱えています。
Metaの入り口はWhatsAppとInstagramで、利用者は世界で30億人以上。文脈は友人関係や保存した投稿で、Museの買い物・予約の取引から手数料を得る計画です。OpenAIはChatGPTの知名度が武器ですが、自前のスマホのようなデバイスはまだありません。文脈は会話の記憶や仕事のアプリとの連携で、Dotsは高価格の上位プランからの提供です。
Amazonの入り口は家の中のAlexaとプライム会員、文脈は買い物の履歴です。自分の店で決済まで完結でき、他社の秘書を締め出すこともできます。Microsoftは、世界中の企業が使う仕事のパソコンとOfficeが入り口で、会社のメールや資料という仕事の文脈を持っています。個人ではなく仕事の秘書として稼ぎ、有料のCopilotは3,000万席あります。
こうして並べると構図が見えてきます。入り口を持っている会社は守りに、持っていない会社は攻めに回っているのです。
AppleはなぜGoogleと組み、Amazonはなぜ他社のAIを締め出すのか?
Appleは新しいSiriについて、GoogleとそのGeminiモデルと協力して作ったと公式に説明しています。2026年1月には両社が共同声明を出しました。Appleは世界最大級の入り口であるiPhoneを持っていますが、最先端のAIの頭脳を自前だけでそろえるのは、時間との勝負に負けてしまう。だから頭脳はGoogleと組み、入り口と利用者の個人的な情報を守るところは自分で握る。そういう分担に見えます。Googleから見ても、iPhoneの中に自分たちのAIが入っていくので悪くありません。スマホの覇権を争ってきた2社が、AIの秘書では手を組んだ。ここが一番面白い点だと思います。
一方、Amazonは9月、MetaのMuseが代わりに買い物することを自分の店でブロックしました。理由はお金の流れにあります。Amazonの広告の売上は、4〜6月期だけで198億ドル、前の年より26%増えました。この広告は、人間がページを見て比べて買うから成り立っています。他社のAIが代わりに買い物をすると、人間がページを見なくなり、広告も見られなくなる。だから入り口は自分たちのAlexaで握りたいのです。
決算の数字と、強気・弱気の見方
では、AIの秘書の登場で各社の稼ぎは減り始めているのでしょうか? 2026年4〜6月期を見ると、Alphabet(Googleの親会社)の検索広告は633億ドルで前年比17%増、Metaの広告は594億ドルで27%増、Appleのサービスは307億ドルで12%増、Amazonの広告は198億ドルで26%増、Microsoftのクラウド全体は593億ドルで27%増でした。すべて伸びています。Appleのサービスは売上全体の約28%を占めるまでになりました。
つまりAIの秘書は、まだ決算の数字を動かすところまで来ていません。今は各社が本業でしっかり稼ぎ、その稼ぎをAIの秘書づくりに注ぎ込んでいる段階です。
強気の見方では、どの会社も本業が伸びていてAIに投資する体力があり、Geminiアプリは月9.5億人と入り口をすでに手にしています。Appleは頭脳を借りても入り口を失わず、Metaには秘書が買い物を手伝うことで広告とは別の手数料という稼ぎが生まれます。
弱気の見方では、AIの秘書はまだ発展途上で提供地域も限られ、MuseやAlexa+は日本ではまだ使えません。お店が他社のAIを締め出す動きが広がれば、秘書は思ったほど役に立たないかもしれません。人がページを見なくなれば、広告で稼ぐモデルは長い目で見て揺らいでいく恐れがあります。AIへの巨額の投資がいつ稼ぎで回収できるかも、まだ見えません。
これから見ていく3つの数字
10月下旬から、各社の7〜9月期の決算が出そろいます。数年がかりで進む入れ替わりの兆しを確かめる材料として、僕は次の3つを見ていきます。
1つ目は、Googleの検索の伸び率が落ちていないか? 4〜6月期は前年比17%増でした。AIの秘書に入り口を奪われ始めると、最初に表れるのはここだと考えています。2つ目は、MetaがMuseの利用者や手数料に触れるかどうか? 広告とは別の稼ぎが、数字として語られ始めるのかを見ます。3つ目は、日本語版のSiriがどこまで使えるのか? 僕たち日本人が、自分の手でAIの秘書を確かめられる最初の機会になります。
まとめ
AIの秘書の戦いは、「どのAIが一番賢いか?」の勝負ではありません。誰が人の一番近くにいて、お金の流れに手が届くのか? この勝負になっていきます。入り口を持つAppleとGoogleは手を組み、MetaとOpenAIは外から攻め、Amazonは自分の店を守っています。
そして今のところ、どの会社の決算もまだ伸びています。だからこそ、数字が動き始める最初の兆しを決算で見逃さないこと。それが、ネットの入り口が入れ替わるかもしれない長い変化を投資に生かす、一番確かな方法だと僕は考えています。詳しい話は上の動画でお話ししています。


