いま、アメリカで最も注目されている上場の話があります。AIのClaudeを作っている会社、アンソロピックです。米国株を長期の資産運用として続け、会社の経営もしている僕の目で、上場の日や初値ではなく、この会社が5年後・10年後に利益を出せるのかを考えます。
この記事の結論
結論を先に3つお伝えします。1つ目。アンソロピックが上場の準備を進めています。売上は1年でおよそ12倍。一方で、去年の赤字は420億ドルと報じられました。
2つ目。ただし、その赤字の8割ほどは帳簿の上の損です。本当に見るべきなのは、計算の設備に払うと約束した5,180億ドルという金額のほうです。
3つ目。5年で見れば、企業の仕事に深く入り込んだ強さが続く可能性は高いと僕は見ています。10年で見るべきは、売上の伸びがこの巨額の約束を払い続けられる速さで続くのかどうか? そして、利益率をどこまで上げられるのか? そこです。
分かっていること、まだ分からないこと
確かなことから整理します。アンソロピックは6月1日、上場に必要な書類の下書きを、アメリカの証券取引委員会(SEC)に非公開で提出したと発表しました。株の数と値段はまだ決まっていない、とも書いています。5月28日には650億ドルの資金を集め、会社の値段が9,650億ドルと評価されたことも、会社が発表しています。
まだ確かではないのは、上場の日、上場する市場、そして上場のときの会社の値段です。2兆ドルを目指しているという報道もありますが、会社は何も発表していません。
このあとの売上や赤字の数字は、9月の終わりにロイターが下書きを見て報じたものです。会社はコメントしていません。正式な数字は、書類が公開されてから確かめる必要があります。
売上は1年で12倍、中心は企業
ロイターによると、2025年の売上はおよそ46億ドルで、前の年のおよそ12倍です。今年に入って伸びはさらに速くなり、会社の発表では、5月の初めの時点で、1年あたりに直した売上の勢いが470億ドルを超えました。
この勢いの中心にいるのは企業です。プログラムを書くAIエージェントのClaude Codeをはじめ、企業がClaudeを仕事の中に組み込んで使っています。個人の遊び相手ではなく、会社の仕事の道具として選ばれている。ここが、アンソロピックのいちばんの強みです。
赤字420億ドルの正体
ロイターによると、2025年の最終的な赤字はおよそ420億ドルでした。ただし、そのうちおよそ340億ドルは、お金が出ていったわけではない帳簿の上の損です。将来株に変わる約束をして集めたお金があり、会社の値段が上がったぶん、その約束の重さが帳簿の上で増えた。そういう会計の処理です。
本業の赤字を表す営業赤字は、およそ80億ドル。前の年のおよそ30億ドルから増えています。見出しの420億ドルほど深刻ではありません。それでも、本業でまだ大きな赤字を出している会社です。さらに、売上のおよそ4分の1は、たった2社のお客さんから来ていると報じられています。
本当に見るべき、5,180億ドルの約束
僕がいちばん大事だと考えているのは、赤字よりこちらです。アンソロピックは、AIの計算に使う設備に、これからの年月で少なくとも5,180億ドルを払う約束をしています。相手はグーグル、アマゾン、マイクロソフトなど6社です。その8割ほどは、使っても使わなくても払わなければならない約束だと、書類に書かれているそうです。
一方で、大きなお客さんの多くは長い契約を結んでいません。お客さんは使う量を減らせますが、アンソロピックの支払いは減らせません。売上は自由に動き、支払いは固定されている。これが、この会社の最大の弱点です。
グーグルやメタは、広告という大きな利益を生む本業を抱え、計算の設備も自分で建てています。アンソロピックは設備を借りていて、支払いは売上と投資家から集めるお金に頼っています。しかも、設備を貸すグーグルとアマゾンは、出資している株主であり、AIで競い合う相手でもあります。上場は、大きなお金を集め続けるための道でもあるんです。
利益は出せる? 2つの兆し
9月、イギリスのフィナンシャル・タイムズは、アンソロピックが投資家に、調整後の営業利益が2四半期続けて黒字になると伝えた、と報じました。社員に株で払う報酬などを除いた数字です。
同じ報道では、売上から計算の費用などを引いて残る割合、売上総利益率が80%を超えているとされています。ただし、アマゾンなど販売の窓口に分ける分と、AIを育てる費用を除いた数字です。
どちらも会社が正式に出した数字ではありません。それでも、本業の赤字が縮み始めている可能性を示しています。AIのモデルを作る会社はソフトウェアの会社の顔をしていますが、原価の重さは製造業に近いところがあります。この利益率を正式な数字でどこまで上げられるのか? そこが会社の値段を決めていくと、僕は見ています。
5年後・10年後のアンソロピック
5年後、2031年ごろ。企業の仕事に入り込んだAIは、簡単には入れ替えられません。仕事の手順そのものが、そのAIに合わせて作られていくからです。大きな会社は、新しいAIを使い始めるまでに審査や稟議で何か月もかけます。一度その手続きを通ったAIを、少し安いからといってすぐに入れ替えたりはしません。だから5年で見れば、売上の強さが続く可能性は高いと僕は見ています。
10年後、2036年ごろ。AIの値段は毎年大きく下がり、誰でも使えるAIのモデルも、最先端に数か月の遅れで追いついてきます。そのとき、値段を下げずに選ばれ続けられるのか? 5,180億ドルの約束を、売上の伸びで払い切れるのか? そこが分かれ目です。
強気の見方と弱気の見方
強気の見方。売上は1年で12倍で、今年はさらに勢いが増しています。お客さんは個人ではなく企業で、仕事に深く入り込んだAIは入れ替えにくい。本業の赤字が縮み、調整後では黒字になっているという報道もあります。
弱気の見方。本業の赤字は、去年はまだ80億ドルありました。設備への5,180億ドルの約束の多くは、使わなくても払う約束です。売上の4分の1が2社に集まり、設備を貸すグーグルとアマゾンは株主であり競争相手でもあります。
僕の見立てが崩れるのは、公開された書類で本業の赤字が報道より大きいと分かったとき、売上の伸びが急に鈍り設備の支払いだけが残る形が見えてきたとき、大口のお客さんが別のAIに乗り換え始めたときです。書類が公開されたら、まずこの3つを確かめます。
まとめ
アンソロピックは上場の準備を進めています。売上は1年で12倍。赤字は420億ドルと報じられましたが、8割ほどは帳簿の上の損です。本当に見るべきなのは、設備に払うと約束した5,180億ドル。売上は自由に動き、支払いは固定されている形です。
大事なのは上場の初値ではありません。上場したあとの決算で、利益の形が見えてくるかどうか? 5年後・10年後の目でこの会社を見るときに、いちばん大事なのはそこだと僕は考えています。
動画では、数字の背景や5年後・10年後の見立てを、僕の言葉でさらに詳しくお話ししています。あわせてご覧いただくと、より深く分かると思います。


