「次は来週に出る」という予想が、なぜこんなに気になるのか?
X では最近、次の大型AIモデルがいつ出るのかという予想合戦がにぎやかです。Anthropic の Opus 5.5 は、公開から約5週間たっても「総合で一番」だとする評価が多く読まれていました。その一方で、OpenAI と Anthropic が近いうちに新しいモデルを出す、中国の GLM も次の版が近い、という見方も流れています。
ただ、どれも投稿した人の予想です。公式の発表ではありません。
それでも気になるのは、AIを毎日使う人ほど「来週なにか出るかも」が仕事に直結するからです。せっかく慣れた道具が、来週には古くなるかもしれない。いま乗り換えるべきか、待つべきか?そう考え始めると、手が止まります。
AIを仕事に使い始めた方に多いのは、こういう流れです。新しいモデルの名前を聞くたびに試す。数日触って「なんとなく良さそう」と感じる。でも、前のモデルと何が違ったのかは言葉にできない。結局、仕事のやり方は前と同じまま。
ここでの問いは1つです。新しいモデルが出たとき、それが「自分の仕事にとって」良くなったのかを、何で判断しますか?
世の中に出回る評価の点数や順位は、評価した人が選んだ作業での比べ方です。あなたの会社の見積書づくりや、お客様への返信文で比べた結果ではありません。だからこそ、予想合戦が盛り上がっている今のうちに、自分専用の物差しを1本持っておく。モデルが次々と入れ替わる時代に、いちばん手間の少ない備えはこれだと僕は考えています。
モデルは入れ替わるアプリ、物差しは動かない土台
講義の第2回で、僕は判断基準の置き場所について話しました。たとえに使ったのは iPhone です。iPhone のOSがなければ、どんな優秀なアプリも動きません。会社も同じで、判断の基準(何を良しとし、何を断るか)が土台にあり、個々の事業はその上で動くアプリにあたります。だから事業ごとに基準を作るのではなく、土台となる基準を1つ決める、という順番になります。
この考え方は、AIのモデル選びにそのまま当てはまります。Opus 5.5 も、これから出るかもしれない新モデルも、立場としてはアプリです。入れ替わるのが前提のもの。一方で「返信文は結論を先に書く」「お客様の名前を間違えない」「値引きを約束しない」といった自分の基準は、モデルが何に変わっても動きません。
土台がないまま新しいモデルを試すと、比べる軸がその日の気分になります。文章が少し上手に見えた、返事が速かった。どれも本当かもしれませんが、昨日と同じ条件で比べていないので、乗り換えの理由にはなりません。
講義で繰り返しお伝えしていることが、もう1つあります。AIに渡すものは3段で、OS(目的・価値観・判断の基準)、前提(仕事や商売の文脈)、型(うまくいった手順)。そして、1つの手順書(スキル)は Claude・Codex・Gemini の3社で同じように使えます。言葉にした基準と手順は、特定のモデルに縛られない財産です。モデルが替わっても持ち運べます。
最後に、第1回の講義で話した手順も効いてきます。ファイルの名前を一括で変えるとき、AIに「変更前後の対照表を作成してから実行してください」と足す。表を見て、気になる行だけ直してから実行すれば、元の名前を失いません。乗り換えも同じで、いきなり全部を替えず、前後を並べた表を見てから決める。土台の基準と、前後の表。この2つがそろうと、予想に振り回されなくなります。
今日作る「比較カード」と、コピーして使える指示文2つ
ここからは、今日そのまま試せる手順です。新しいモデルが出る前に済ませておくのがポイントになります。
手順1:いま使っているAIで、毎日の仕事のうち速くなった作業を1つだけ書き出します。お客様への返信文、会議メモの清書、見積書の説明文など、週に何度も繰り返すものが向いています。1つに絞るのは、毎回同じ条件で比べるためです。
手順2:その作業を、AIに「比較カード」にしてもらいます。次の指示文をコピーして、〇〇の部分だけ書き換えてください。
【指示文1】
次の作業を、新しいAIモデルと比べるための「比較カード」にしてください。項目は、作業の名前/毎回渡す材料/そのまま使う指示文/良い出来と言える条件3つ、の4つです。条件3つは、私の判断の基準に沿って書いてください。基準が足りないときは、書き始める前に私に質問してください。
作業:〇〇
私の判断の基準:〇〇
できたカードは、テキストのファイルにして保存しておきます。指示文と材料は、この先いじらないことが大事です。
手順3:新しいモデルが公式に出たら、同じカードの材料と指示文を、いまのモデルと新しいモデルの両方に渡します。出てきた2つの答えを、次の指示文で並べます。
【指示文2】
次のAとBは、同じ材料と同じ指示文で、別々のAIモデルに作らせた答えです。比較カードの「良い出来と言える条件3つ」ごとに、AとBの変更前後の対照表を作成してください。各行に、どちらが条件を満たしているかと、その理由を1文で書いてください。乗り換えるかどうかは私が決めるので、表だけを出してください。
比較カード:〇〇
A(いまのモデルの答え):〇〇
B(新しいモデルの答え):〇〇
手順4:表を見て、新しいモデルが上回った行を確かめます。気になる行は、元の答えを自分の目で読み直してください。AIの判定をうのみにせず、最後の判断を自分に残すための1行が「乗り換えるかどうかは私が決める」です。
予想は楽しむ。乗り換えは表で決める
次の大型モデルの予想合戦は、眺めているだけでも面白いものです。Opus 5.5 の評価が約5週間たっても高いこと。OpenAI と Anthropic、そして GLM の次の版が近いという見方。どれも、AIが速いペースで入れ替わっていることを物語っています。ただ、予想は予想です。公式の発表が出るまで、仕事のやり方を動かす理由にはなりません。
僕なら、こうします。予想の段階では何も替えない。今日のうちに比較カードを1枚だけ作り、保存しておく。新しいモデルが公式に出たら、同じカードで新旧を試し、対照表を見る。3つの条件のうち上回ったものがはっきりあれば、その作業だけを先に移します。全部を一度に乗り換えることはしません。
なぜここまで慎重にするのか?僕はエンジニア経験ゼロで、自分で設計図を書き、AI経営本部を48時間で組み上げました。そのとき支えになったのは、道具の新しさより、何をどうしてほしいかを言葉にする力でした。講義で繰り返し話している「言語化の力」です。モデルは替わっても、言葉にした基準と手順は手元に残ります。
カードを作ると、もう1つ得をします。自分の仕事のどこが速くなったのかが、言葉になって残るのです。これは新モデルとの比較だけでなく、いまのAIにもっと深く任せるための材料にもなります。「AIは、使うものではなく、育てるもの」。育てる土台さえあれば、新しいモデルは振り回される相手ではなく、カードで試せる候補の1つに変わります。
来週なにかが出るかどうかは、誰にも分かりません。けれど、出たときに同じ物差しで比べられる準備なら、今日できます。あなたなら、まずどの作業をカードにしますか? 僕なら、毎日いちばん回数の多い返信文から始めます。


