「1位を少し上回った」という噂に、心がざわついた人へ
いま X で、次のClaudeらしきモデルの噂が広がっています。
コーディング(AIにプログラムを書かせる力)の評価表に、正体の分からないモデルが現れました。点数は、今の1位であるOpus 5.5を少し上回っていたそうです。Claude用の環境で動いていたことから、次のClaudeではないかと推測されています。もう一つ、評価サイトが「非公開の問題」で採点する方式に切り替え、公開されているモデルとの差が広がったとも伝えられました。
次の製品の先取り情報と、順位の付け方が変わったこと。この2つが重なって、多くの人の目を引いています。
こういう話を見ると、仕事でAIを使い始めた経営者ほど落ち着かなくなります。今の契約のままでいいのか?新しいものが出るまで待つべきなのか?社員から「結局、どれを使えばいいんですか?」と聞かれて、答えに詰まった経験がある人もいるはずです。せっかく覚えた使い方が、次の発表で無駄になる気がする。その不安はよく分かります。
ただ、ここで立ち止まって考えてほしいことがあります。AIの道具は、これからも数か月ごとに入れ替わっていきます。そのたびに順位表を見て乗り換えていたら、仕事の中身はいつまでも育ちません。選ぶ基準を持たないまま新しい道具を追いかけると、振り回されるのは道具ではなく、自分の会社のほうです。
僕の考えは単純です。順位表の数字だけで道具を選ばない。自分の仕事で試した結果で決める。そして噂の段階では、待つだけでいい。
では、待っている間に何をしておけばいいのか?この記事では、その考え方と、今日そのまま試せる手順をお渡しします。
順位表は「よその会社の入社試験」の点数にすぎない
評価表の点数は、誰かが用意した問題を解かせた結果です。たとえるなら、よその会社の入社試験で何点取ったか、という話に近いものです。
今回、評価サイトが非公開の問題に切り替えたら、公開モデルとの差が広がったと伝えられました。これは裏を返すと、問題の選び方ひとつで順位や点差が動くということです。どんな問題で測るかによって、見える景色が変わる。順位表そのものが、そのことを教えてくれています。
そして大事なのは、あなたの仕事はその試験に出ていないという点です。取引先へのお詫びの文面、散らかった請求書ファイルの整理、会議メモの清書。こうした毎日の仕事でどれだけ手直しが減るかは、評価表のどこにも載っていません。「少し上回った」という差が、あなたの仕事で差になるかどうかは、試してみるまで誰にも分からないのです。
僕は講義の第2回で、判断基準の置き場所の話をしました。判断基準は土台で、一つひとつの事業はその上で動くアプリだ、という考え方です。iPhoneのOSがなければ、どんな優秀なアプリも動きません。
AIのモデル選びも同じ構造です。どのモデルを使うかは、上に載せる部品の話です。その下にある「自分の会社は何を大事にし、何をしないか」という基準が先に決まっていなければ、どれほど点数の高いモデルを入れても、答えはぶれます。逆に土台がしっかりしていれば、部品を取り替えても仕事は崩れません。
僕がいつも言っている「AIは、使うものではなく、育てるもの」の意味もここにあります。育てるのは、モデルではなく、AIに渡す中身のほうです。目的と判断の基準、仕事の前提、うまくいった手順。この中身は、モデルが替わっても持ち越せます。1つの手順書が、Claude・Codex・Geminiの3社で同じように使えるのはそのためです。
今日つくれる、自分専用の「3問テスト」
新しいモデルが正式に出たときに、すぐ判断できるように、今のうちに自分専用の試験問題を3つ作っておきます。手順は4つです。
1. 消えても困らないフォルダを1つ選ぶ
最初から大事なデータは使いません。古い見積書の写しや、使い終わった資料の入ったフォルダで十分です。
2. 1問目「ファイル名の統一」を今のAIに解かせる
講義の第1回で話した手順です。一括で名前を変えるときは、変更前と変更後の対照表を先に出させます。表を見て、気になる行だけ直してから実行すれば、元の名前を失いません。次の指示文をそのままコピーして使ってください。
――ここから――
このフォルダの中のファイル名を「日付_取引先名_書類の種類」の形にそろえてください。
変更前後の対照表を作成してから実行してください。
表を確認して「実行」と伝えるまでは、名前を変えないでください。
ファイルは削除せず、不要に見えるものは「保留」という名前のフォルダへ移動してください。
――ここまで――
3. 2問目「いつもの文章」を判断基準つきで書かせる
毎週のように書く文章を1本選びます。指示文の冒頭に、自分の判断基準を3行だけ置きます。
――ここから――
次の判断基準を守って、お客様へのお知らせ文を400字で書いてください。
判断基準:約束できないことは書かない。専門用語は言い換える。お客様の手間が増える話は最初に書く。
内容:(ここにお知らせしたい中身を書く)
――ここまで――
3問目は、あなたがふだん迷う判断を1つ選び、同じ基準を渡して「どちらを選ぶか、理由つきで」と聞いてみてください。
4. 結果を「点数」ではなく「直した量」で記録する
対照表で直した行の数、文章で書き直した箇所、判断の理由に納得できたかどうか?この3つをメモに残します。これが、あなた専用の評価表になります。
僕なら、噂の間は乗り換えずに「試験問題」を磨く
ここまでの話をまとめます。
評価表の順位は、誰かが作った問題での点数です。問題の選び方が変われば、順位も点差も動きます。そしてあなたの仕事は、その試験には出ていません。だから道具は、自分の仕事で試した結果で選ぶのが安全です。その土台になるのは、どのモデルを使うかより先に決めておく、自分の判断基準です。
僕なら、今回の噂の段階では何も乗り換えません。契約も変えないし、社員への指示も変えません。そのかわり、今日お渡しした3問テストを今のAIに解かせて、結果を記録しておきます。正式に新しいモデルが出たら、同じ3問をそのまま新旧の両方に渡し、直した行の数と書き直した箇所で比べます。手直しがはっきり減った仕事があれば、その仕事だけを先に移す。全部を一度に替えることはしません。
こう決めておくと、噂を見ても心がざわつかなくなります。新しい発表は、慌てて追いかけるものではなく、手元の試験問題で確かめる「次の受験者」に変わるからです。
僕はエンジニア経験ゼロで、自分で設計図を書き、AI経営本部を48時間で組み上げました。そのとき助けになったのは、最新のモデルの名前を知っていることではありませんでした。何を任せ、何を任せないか?どこまでなら失敗しても困らないか?その線を自分の言葉で書けたことでした。
道具の順位は、これからも入れ替わり続けます。一方で、あなたが書いた判断基準と3問のテストは、どのモデルに替えても使える、あなたの会社だけの持ち物として残ります。
噂が本当かどうかは、正式な発表を待てば分かります。待っている間に、自分の試験問題を1つ作っておく。僕なら、今日の空いた15分をそこに使います。


