9月30日、アメリカのメモリの会社マイクロンが決算を発表しました。売上は前の年の4.8倍、利益率は87%と、会社の見通しを上回ったのに、株価はほとんど動きませんでした。なぜ市場は身構えているのか? 明日の株価ではなく、AIのメモリ不足が5年後・10年後のマイクロンをどう変えるのかを、米国株を長期の資産運用として続けている僕の立場から考えます。
この記事の結論
結論を先に3つお伝えします。1つ目。マイクロンの売上は1年で4.8倍、利益率は87%です。それでも株価は、来年の予想利益の6年分ほどしかついていません。市場は「メモリの好況は、いつか終わる」という40年の常識で、マイクロンを見ています。
2つ目。AIの時代に、メモリは「浮き沈みの激しい部品」から「AIの性能を決める部品」に変わりました。マイクロンはメモリ不足が2028年まで続くと見て、長い契約で好況の一部を固定し始めています。
3つ目。5年は追い風が続く可能性が高いと僕は見ています。ただし、メモリの不況がなくなるとは見ていません。10年で見るべきは、新しい工場が動き出したあとの最初の不況で、この長い契約が守られるのか? という点です。
メモリは、AIの「作業机」
AIの計算をする頭脳が、エヌビディアのGPUです。メモリは、その頭脳が使う「作業机」です。どんなに頭のいい人でも、机が狭ければ資料を広げられず、仕事が遅くなります。今のAIでは、計算の速さよりも、データを机から運んでくる速さが性能の上限を決めることが多くなりました。
そこで生まれたのが、HBMという特別なメモリです。メモリを何枚も縦に積み重ねて、GPUのすぐ横に置きます。机を頭脳の真横に、高く積み上げるイメージです。このHBMを作れるのは、世界で3社だけ。韓国のSKハイニックスとサムスン、そしてアメリカでただ1社残ったメモリの会社、マイクロンです。
今、メモリが世界中で足りない理由は3つあります。AIのデータセンターがHBMを大量に使い、そのぶん普通のメモリを作る場所が減ること。AIが賢くなるほど、必要な机も大きくなること。そして工場は、建て始めてから物が出てくるまでに何年もかかることです。
売上4.8倍。87%の利益率の正体は「値段」
6月から8月の3か月の売上は542億ドル。1年前は113億ドルほどでした。1年間の売上は1,332億ドルで、前の年の3.5倍です。営業利益率は82%。次の3か月の見通しは、さらに多い615億ドルです。
ただし、大事なことがあります。この伸びは、ほとんどが「値段」です。メモリの出荷量は3か月で数%しか増えていない一方で、値段は2割近く上がりました。作る量は増やせない。足りない分が、そのまま値段に乗っている。これが87%という利益率の正体です。
それでもPER6倍前後。メモリの「40年の呪い」
株価が利益の何年分にあたるかを示す物差しを、PERと言います。マイクロンのPERは6倍前後です。これは、市場が「この利益は長く続かない」と見ているということです。
メモリの業界は40年間、同じことを繰り返してきました。メモリが足りなくなる。値段が上がる。各社が儲かる。儲かったお金で一斉に工場を増やす。数年後、工場が動き出すと今度はメモリが余り、値段が崩れる。好況が、次の不況の種をまくんです。僕はこれを、メモリの「40年の呪い」と呼んでいます。
マイクロンも、2023年には赤字に転落しました。ほんの3年前のことです。だから市場は、売上が4.8倍になっても身構えているわけです。
呪いを、契約で断ち切れるのか?
マイクロンは、この呪いに契約で立ち向かおうとしています。お客さんと2030年までの長い契約を結び、数年分の量を先に約束してもらう。引き取らなくても、お金は払ってもらう。こうした契約はすでに26件あり、2030年までの売上の35%以上を占める見込みです。
多くの契約には値段の上限と下限が決めてあり、会社によると、下限の値段でも利益率は過去の好況のピークを大きく上回る水準です。かつての天井が、新しい床になったわけです。さらにお客さんは、この契約のために合わせて320億ドルを前払いで預けています。それだけ、メモリは取り合いになっています。
HBMでいちばん先を走るのはSKハイニックスで、サムスンが追い上げ、マイクロンは3番手から食い込みました。マイクロンはエヌビディア専用のHBMも作っており、2027年に出すHBMの大部分について、すでに大きな値上げで契約を済ませたと発表しています。
ただし、この契約はまだ一度も本当の不況を経験していません。メモリが余ったとき、お客さんが契約をそのまま守るのか? それは、まだ誰にも分かりません。
5年後・10年後のマイクロン
5年後、2031年ごろ。マイクロン自身は、2027年と2028年は2026年よりさらにメモリが足りなくなると見ています。自動運転の車や人型ロボットは、今の運転支援つきの車の10倍以上のメモリを使う、という見方もしています。AIの次の需要も、もう見えています。だから5年で見れば、追い風が続く可能性が高いと僕は見ています。
10年後、2036年ごろ。ここは分かりません。マイクロンはアメリカのアイダホとニューヨーク、日本の広島、シンガポールで新しい工場を建てており、動き出すのは2027年から2030年にかけてです。韓国の2社も工場を増やし、中国のメモリの会社も追い上げています。メモリが余る局面は、いずれ来ると僕は見ています。そのとき長い契約が守られ、利益の床が本当に床として残るのか? それが10年後を決める分かれ目です。
強気の見方と弱気の見方
強気の見方です。売上は1年で4.8倍、次の3か月もさらに増える見通しです。2030年までの長い契約で、売上の35%以上が固まりつつあります。手元の現金は735億ドルで、借金を引いても683億ドルが残る、とても強い財務です。そしてHBMは、世界で3社しか作れません。
弱気の見方です。利益の伸びのほとんどは値段の上昇で、値段は上がるときと同じ速さで下がることがあります。会社自身も、これからは値上がりのペースが緩やかになると話しています。工場への投資は来年さらに増え、各社が一斉に工場を増やす形は、過去の不況の入口と同じ形です。そして長い契約は、まだ一度も不況を経験していません。
僕の見立てが崩れるのは、メモリの値段が前の3か月より下がり始めたとき、大手のクラウドの会社がデータセンターへの投資を減らし始めたとき、長い契約の見直しや値下げを求める動きが出てきたときです。決算のたびに、この3つを確かめていきます。
まとめ
マイクロンの売上は1年で4.8倍、利益率は87%。それでも株価は予想利益の6年分ほどで、市場は40年の呪いを忘れていません。一方でAIの時代に、メモリはお客さんがお金を先に払ってまで取り合う「AIの性能を決める部品」になりました。
5年で見れば、追い風は続く可能性が高い。10年で見れば、不況はいずれ来る。事業が伸びても、株価の上昇が約束されるわけではありません。売上の大きさではなく、不況が来たときにどれだけ利益が残るのか? メモリの会社を5年後・10年後の目で見るときに、いちばん大事なのはそこだと僕は考えています。
メモリが「作業机」としてAIの性能を左右する仕組みや、40年の呪いの流れは、動画で順を追ってお話ししています。動画もあわせてご覧いただくと、より深く分かると思います。


