「次のモデルがまもなく」の投稿を見て、契約を変えたくなったら
ここ数日、X のタイムラインで「上場に合わせて、Anthropic の次のモデルがまもなく出る」という予想を何度も見かけます。複数の人が、それぞれの見立てを語っています。ただ、どれも投稿した人の推測です。公式の発表は、まだ出ていません。
それでも、こうした投稿を読むと心がざわつきます。今の有料プランを続けてよいのか? 別の会社のAIに乗り換えるなら今なのか? 年払いの契約は、更新を止めて様子を見るべきか? 社内でAIの導入を任されている人なら、上司から「次のが出るなら、待ったほうがいいのでは?」と聞かれる場面もあるはずです。
大きなニュースに「次はこれが来る」という期待が乗ると、話題は一気に広がります。読む側はつい、噂を予定のように受け取ってしまいます。そして新しいモデルの話題は、これから先も何度もくり返し流れてきます。噂のたびに道具を替えていたら、AIを仕事に落とし込む時間がなくなってしまいます。今この話をしておきたいのは、そのためです。
先に、僕の答えを一文で置いておきます。AIに大きな変更を頼むとき、僕が指示文に足している一文です。
「変更前後の対照表を作成してから実行してください。」
これは本来、ファイル名を一括で付け替えるときの頼み方で、講義の第1回で受講生にお伝えしました。変える前と変えた後を表で並べさせ、気になる行だけ直してから実行する。そうすれば、元の名前を失いません。
AIのモデルを乗り換えるのも、実は同じ種類の「大きな変更」です。噂を見て契約を動かすのは、対照表を見ないまま一括変更を実行するのに近い。なぜそう言えるのか? 次の章で、仕組みからお話しします。
モデルは入れ替わるアプリ、判断基準は動かない土台
講義の第2回で、僕はこんな話をしました。「iPhoneのOSがなければ、どんな優秀なアプリも動きません。」
ここで言うOSは、会社や自分の判断の基準のことです。何を目的にするか、何を大事にするか、迷ったときにどちらを選ぶか?事業はその上で動くアプリにあたります。事業ごとに基準を作るのではなく、土台を1つだけ決める。そうすると、物販でも飲食でも、仕事以外の場面でも、判断がぶれにくくなります。
AIとの付き合い方も、同じ形で考えられます。AIに渡すものは3段あります。いちばん下がOS(目的・価値観・判断の基準)、その上に前提(自分の仕事や商売の事情)、いちばん上に型(うまくいった手順)。この3段は、あなたの手元にある文章です。どこかの会社のAIの持ち物ではありません。
一方、AIのモデル(AIの頭脳にあたる部分)は、この土台の上で動く道具です。道具は替わります。実際、手順を書いた1つのファイルは、Claude・Codex・Gemini の3社で同じように使えます。土台と型を自分の側に持っていれば、モデルが新しくなっても、積み上げたものは消えません。
では、なぜ噂ひとつでこれほど不安になるのか? 理由は、育てたものの置き場所にあります。毎回チャットの画面で一から事情を説明していると、育てた中身はそのAIとの会話の中にしか残りません。だから乗り換えが、ゼロからのやり直しに見えてしまうのです。
AIは、使うものではなく、育てるもの。そして育てた中身は、自分の側に置いておく。ここさえ押さえておけば、新しいモデルの登場は不安の種ではなくなります。自分の土台をそのまま渡して、出来を比べればいい。比べる道具は、第1回でお伝えした対照表で足ります。
公式発表の前に、今日やっておく4つの手順
手順は4つです。今日やるのは①と②だけ。③と④は、公式の発表が出てから行います。
①毎週くり返している作業を3つ選ぶ
議事録の清書、取引先へのメールの下書き、売上の数字のまとめなど、自社で毎週出てくる作業から3つ選びます。手間がかかる割に、判断の少ないものが向いています。
②今のAIで「試験用の指示書」を作り、答えを保存する
次の指示文を、今使っているAIにそのまま貼ってください。
【指示文1】
これから、うちの会社で毎週やっている作業を3つ書きます。それぞれについて、1.作業の目的、2.AIに渡す材料、3.「良い出来」と言える条件を3行ずつ書き出し、1つの「試験用の指示書」にまとめてください。冒頭には、うちの会社の判断の基準を書く欄を空けておいてください。あとで別のAIにも同じ指示書を渡し、出来を比べます。
出てきた指示書の冒頭に、自社の判断の基準を2〜3行で書き足します。そのうえで3つの作業を今のAIにやらせ、答えをファイルに保存しておきます。これが、あとで比べるときの物差しになります。
③公式の発表が出たら、同じ指示書を新しいモデルに渡す
条件をそろえるのが肝心です。指示書は1文字も変えずに渡します。最初は、消えても困らない1つのフォルダの中だけで試してください。ファイルを扱う作業なら、指示文に「削除せず移動してください」と足しておきます。
④乗り換える前に、対照表を作らせる
2つの答えがそろったら、次の指示文を貼ります。
【指示文2】
同じ指示書で出した、今のAIの答えと新しいAIの答えを下に貼ります。乗り換えを決める前に、変更前後の対照表を作成してください。列は「作業名/今の答え/新しい答え/良い出来の条件を満たしたか/気になる点」の5つです。表を作るところで止めて、どちらがよいかの結論はまだ出さないでください。
結論を出させないのには理由があります。どちらを選ぶかは、表を見た人間が決めることだからです。気になる行だけ自分の目で確かめれば、噂ではなく、自社の作業の出来で判断できます。
僕なら、噂の日には何も変えない
次のモデルの予想は、これからも何度も流れてきます。今回のように大きなニュースと重なれば、なおさら広がります。そのたびに心が動くのは自然なことです。ただ、予想はあくまで予想で、公式の発表ではありません。
僕なら、噂の段階では契約もプランも動かしません。乗り換えも決めません。その代わり、今週のうちに3つの作業で試験用の指示書を作り、冒頭に判断の基準を書いておきます。今のAIが出した答えも保存しておきます。そして公式の発表が出た日に、同じ指示書を新しいモデルに渡し、対照表を作らせる。乗り換えるかどうかを決めるのは、その表を見てからです。
こう決めているのには、僕自身の経緯があります。僕にはエンジニアの経験がありません。それでもAI経営本部を48時間で組み上げられたのは、道具に詳しかったからではありません。自分で設計図を書き、何をどう判断するかを言葉にしてAIに渡したからです。物販・飲食・情報・サービスの4事業を回している今も、土台にあるのは同じ考え方です。講義でくり返しお伝えしているのも、道具の知識より、狙った文章を書く力(言語化の力)のほうです。
新しいモデルが出ること自体は、悪い話ではありません。土台を持っている人にとっては、自分の仕事をもう一度測り直す機会になります。反対に、土台がないまま乗り換えると、何が良くなったのかを確かめる物差しがありません。
噂に合わせて道具を替えるのか? それとも、土台を整えて発表を待つのか? 僕は後者を選びます。今日できるのは、3つの作業を選んで、指示書を1枚作ることです。発表の日に慌てずに済むのは、その1枚を持っている人です。


