アドビのアプリが、AIでタダで作り直されました。フォトショップも、プレミアも、見た目はそっくりです。「アドビ終了」とまで言われる中、5年後・10年後もアドビは稼げるのでしょうか?
この記事の結論
結論を先に3つお伝えします。1つ目。そっくり版は本物に近いものの、プロの毎日の仕事にはまだ届きません。
2つ目。AIで安くなったのは、ソフトを作る手間です。アドビの堀は、その外にあります。
3つ目。本当の弱点は、お客さんの不満と、使う人の数が増えにくいことです。最後に、決算で毎回確かめる3つの点もお伝えします。
アドビの全アプリが、AIで作り直された
10月の初め、アメリカの開発者が、アドビの主なアプリ7つを作り直したと発表しました。写真を直すフォトショップ、ロゴを描くイラストレーター、動画をつなぐプレミア、PDFを扱うアクロバットなどです。
使ったのは、アンソロピックのAI、クロードです。どれも無料で、中身の設計図も公開されています。作った人は、アドビのプログラムを1行も使わず、公開された仕様と外から見える動きだけを手がかりに作ったと説明しています。
「ソフトは、もうお金を払って借りなくていい。必要なら、AIで作ればいい」。AIが出てきたころから言われていたことが、目の前で起きたわけです。
きっかけは、アドビの「解約金」
開発者本人は「解約金という落とし穴に、何度もつまずいた」と書いています。2024年、アメリカ政府は、途中でやめるときの手数料が分かりにくく、解約もしにくかったとしてアドビを訴えました。
今年3月、アドビは1億5,000万ドル分で和解しました。アドビは違法なことはしていないと説明していますが、「解約金」という言葉は、アドビの名前と一緒に広がりました。そんな不満が積もっていたところに、このそっくり版が出てきたのです。
そっくり版の実力と、最後の2割
実際に使ってみた人の声は「不具合はあるが、本物のフォトショップのように使える」というものでした。フォトショップの作業ファイルもそのまま開け、試験用の309個のファイルで307個が崩れずに保存し直せたそうです。自動の確認テストも1,700を超えています。
ただし作った側も「まだ、プロの毎日の仕事の代わりにはならない」と書いています。AIを使った機能や、プラグインと呼ばれる追加の機能などが足りません。
AIで早く作れたのは、まねには答え合わせの相手がいるからです。本物のアプリがあり、ファイルの仕様も公開されています。AIが作り、テストで確かめ、外れたら直す。これを何度でもくり返せます。
けれども本物との最後の差は、長年のお客さんの細かい使い方の積み重ねで、そこには答え合わせの相手がいません。最初の8割は速く、最後の2割がいちばん遠いのです。
「SaaSの死」と、そっくり版がまねできない4つの堀
SaaSとは、ソフトを買い切りではなく、月額や年額で貸す商売のことです。「これからは、ソフトを借りずに、AIで自分で作る」。この不安が「SaaSの死」と呼ばれ、アドビやセールスフォースなどの株は今年大きく売られました。AIで画像を作る新しい道具が次々に出てきたことや、売上の伸びがゆるやかになったことも理由です。
ただ、AIで安くなったのはソフトを作る手間です。僕は、そっくり版が届かない堀が4つあると見ています。
1つ目はプロの仕事の流れです。1人が乗り換えても、同じ手順で回しているチームは簡単には乗り換えられません。2つ目はファイルの形式です。フォトショップのファイルやPDFは仕事のやり取りの共通語で、PDFはもともとアドビが生み出した形式です。
3つ目は画像を作るAIのファイアフライです。許可を得た素材で学ばせたと説明し、企業向けには権利のトラブルを補償する契約も用意しています。4つ目は企業との契約で、大企業が新しいソフトを入れるには審査や稟議で何か月もかかります。
一方で、写真を少し直したい、チラシを1枚作りたいといった軽い使い方のお客さんは、無料の道具に移る可能性が高いと僕は見ています。
今のアドビの稼ぐ力
9月10日に発表された6月から8月の決算では、売上は67.6億ドルで前の年より13%増え、過去最高でした。営業利益は23.5億ドルで、売上の3割を超える利益が残っています。AIを中心にした商品の年間の契約額は、前の年の2.5倍を超えました。
ただし、会社全体の年間の契約額の伸びは、今年は10%ほどの見通しです。伸びてはいるけれど、加速はしていない。ここが市場の心配しているところです。
5年後・10年後のアドビ
5年後の2031年ごろ、プロと企業の仕事の流れは大きく変わらない可能性が高いと僕は見ています。売上は伸び続けるものの、軽い使い方のお客さんが離れる分、伸びはゆるやかになるでしょう。
10年後の2036年ごろの本当の脅威は、そっくり版ではなく「席の数」です。アドビは使う人1人ごとに料金をいただいています。AIに「この写真を、広告用に10パターン」と頼めば仕上がってくる時代には、人がアプリを開く時間が減り、使う人の数が増えにくくなります。
アドビも、チャットGPTの中からフォトショップを呼び出せるようにしました。12月1日からは、チャクラバルティさんが新しいCEOとしてこの変化に向き合います。AIの中で欠かせない「仕上げの職人」として呼ばれ続けるのでしょうか? それとも、AIの会社が仕上げまで自分でやってしまうのでしょうか?
強気と弱気、見立てが崩れる条件
強気の見方では、売上は過去最高で、AIを中心にした商品の契約額は1年で2.5倍を超えました。4つの堀は、そっくり版では崩れていません。
弱気の見方では、会社全体の契約額の伸びは10%ほどで加速しておらず、AIが仕事を仕上げる時代には席の数が増えにくくなります。乗り換え先が増える時代には、解約金をめぐるお客さんの不満も弱点になります。
僕の見立てが崩れるのは、契約額の伸びが10%を割り込んで下がり続けたとき、AIを中心にした商品の伸びが止まり、席に代わる稼ぎ方が育たないとき、そしてプロや企業の現場でアドビを通さずに仕事が回り始めたときです。決算のたびに、この3つを確かめていきます。
まとめ
アドビのアプリのそっくり版が、AIでタダで作られました。でも、安くなったのはソフトを作る手間で、アドビの堀はまだ崩れていません。本当の弱点は、お客さんの不満と、席の数が増えにくくなることです。
10年後のアドビを決めるのは、稼ぎ方そのものを変えられるという一点です。動画では、そっくり版の実力や4つの堀を、さらに詳しくお話ししています。あわせてご覧いただくと、より深く分かります。


