新しいAIの名前が出るたび、乗り換えを考えていませんか?
公式の発表より先に、公式サイトの中から名前が見つかりました。
最近、Xでこんな話題が広がっています。Anthropic(Claudeを作っている会社)の公式サイトのソースコード、つまりページの裏側に書かれた文字の中に、「Claude Mythos 5.5」という名前が載っていた、というものです。サイバーセキュリティや生物学の研究に向けた最上位のモデル(AIの頭脳にあたる部分)だという説明文も一緒にあった、と複数の投稿が画像付きで伝えました。
発表の前に、本人の家の中から証拠が出てきた。この抜け駆けのような感じが、多くの人の目を引いているのでしょう。「Fable 5.5」も一緒に出るという見方や、Anthropicの株式上場(IPO)に触れる投稿もあります。ただ、どちらもまだ推測の段階です。
こういう話題を見ると、経営者の頭に浮かぶ問いはだいたい決まっています。「今使っているAIから、乗り換えたほうがいいのか?」「出たらすぐ契約すべきなのか?」
僕の答えは、まだ何も決めなくていい、です。発表はされていません。中身も値段も分かりません。分からないものに合わせて仕事の道具を替えるのは、順番が逆になります。
とはいえ、何もしないのとも違います。新しいAIが出るたびに振り回される会社と、落ち着いて選べる会社があります。その差を生むのは、AIの知識の量ではありません。「うちの会社は、何を基準にAIを選び、何を任せるのか」が紙1枚に書いてあるかどうかです。
経営者は全員、この紙1枚を持っておくべきだと僕は考えています。新しいモデルの名前が話題になっている今日は、それを書き始めるのにちょうどいい日です。
AIは土台の上に載るアプリの1つにすぎない
なぜ、紙1枚あるだけで振り回されなくなるのでしょうか?
講義の第2回で、僕はこう話しました。「iPhoneのOSがなければ、どんな優秀なアプリも動きません」。OSとは、スマホの土台になっている仕組みのことです。アプリはその上に載って、はじめて動きます。
会社も同じ形をしています。目的、価値観、判断の基準。これが土台で、物販や飲食といった事業は、その上で動くアプリにあたります。事業ごとにばらばらの基準を作ると、土台が何枚もある状態になり、どこかで判断がぶつかります。だから講義では、事業ごとに基準を作るのではなく、土台の基準を1つ決めてください、仕事でも家庭でも同じ基準でぶれないか確かめてください、と伝えました。
AIも、この土台の上に載るアプリの1つです。Claudeでも、ほかの会社のAIでも、名前が出たばかりのMythosでも、替わるのはアプリのほうです。土台がある会社は、新しいアプリが出ても「うちの基準に照らして、使うか使わないか」をすぐに決められます。土台がない会社は、評判や話題の大きさで決めるしかありません。これが、振り回される正体です。
講義で繰り返し話しているのは、AIに渡すものは3段ある、ということです。いちばん下が判断の基準。その上に仕事や商売の前提。いちばん上に、うまくいった手順。下から順に積むので、使うAIが新しくなっても、下の2段はそのまま持っていけます。
もう1つ、第3回の講義で話したことがあります。「工場の話だから自分には関係ない」は誤解です、と。工場で生まれた経営の考え方も、仕事のやり方として読み替えれば、知識労働やAI活用にそのまま使えます。
今回の「セキュリティや研究向け」という説明にも、同じことが言えます。「うちは研究所ではないから関係ない」と流すのは早すぎます。守りの点検は、会社の大きさに関係なく、どこにでもある仕事だからです。今やるのは、自社の点検をAIに頼めないか考えておくところまでで十分です。
今日やる3つの手順と、そのまま使える指示文
ここからは、記事を閉じたらすぐに試せる手順です。
手順1は、紙1枚の下書きをAIと一緒に作ることです。ふだん使っているAIに、次の文をそのまま貼ってください。〇〇の部分だけ、自分の言葉で埋めます。
「あなたは僕の会社の判断の相談役です。これから3つの問いに答えるので、AIを選ぶときと仕事を任せるときの判断基準を、A4の紙1枚にまとめてください。
①うちの会社がAIに任せたい仕事は何か?
②その仕事で、外に出してはいけない情報は何か?
③AIを乗り換えるのは、どんな条件がそろったときか?
僕の答え:〇〇
まとめる前に、足りない点があれば質問を1つずつしてください。」
最後の1行が効きます。AIが聞き返してくれるので、自分の頭の中にあった基準が、言葉になって外に出てきます。
手順2は、守りの一覧づくりです。新しいセキュリティ向けのモデルが出てから慌てるより、今のうちに「点検してほしいもの」を並べておきます。
「うちの会社で使っている道具とアカウントの一覧を貼ります。セキュリティの点検として、確かめたほうがよい点を、急ぐ順に並べてください。ファイルや設定には一切手を触れず、気づいた点を書き出すだけにしてください。
一覧:〇〇」
一覧を作ってみると、地味な抜けが見つかることがあります。たとえば、辞めた人のアカウントが残ったままになっている。同じパスワードを、いくつもの道具で使い回している。どちらも、書き出してみて初めて気づく種類のものです。
ほかにも、月に1回この紙を見直す日を決める方法や、事業ごとに紙1枚へ当てはめて確かめる方法があります。
手順3は、任せる範囲を小さく始めることです。最初は、消えても困らないフォルダを1つだけ選び、指示文に「削除せず移動」と足します。この小さな一手で、AIに任せても大丈夫だという手応えが得られたら、本命の仕事へ広げていけます。
この3つをやっておくと、次のような利点があります。
・新しいAIの名前が出ても、紙に照らして落ち着いて選べる
・出してはいけない情報が、自分にも社員にも見えるようになる
・守りの点検を、新しいモデルにすぐ頼める状態になる
・使うAIが替わっても、紙はそのまま持っていける
僕なら、発表を待つ間に紙1枚を書いておく
ここまでの話を、もう一度ひとつにまとめます。
公式サイトの中から、まだ発表されていない名前が見つかりました。気になるのは自然なことです。ただ、名前が出たことと、自分の会社がそれを使うべきかどうかは、別の問題です。そして後者を決めるのは、話題の大きさではなく、自社の判断の基準です。
僕はエンジニアの経験がありません。それでも、自分で設計図を書き、48時間でAI経営本部を組み上げました。道具の操作に詳しかったからではありません。何を任せて、何を任せないのかを、先に言葉にしていたからです。
物販・飲食・情報・サービスと、性格の違う4つの事業があっても、土台の考え方は変わりません。事業はアプリで、判断の基準はその下に1つ。だからこそ、上に載せるAIが入れ替わっても、慌てずに済むのだと考えています。
「AIは、使うものではなく、育てるもの」。講義でいつも話している言葉です。育てるとは、新しい道具に飛びつくことではありません。自分の基準を渡し、仕事の前提を渡し、うまくいった手順を積み重ねていくことです。この積み重ねは、モデルの名前が変わっても消えません。
では、今日の僕なら何をするのか?
Mythosの発表を待つ間に、紙1枚を書きます。任せたい仕事、外に出してはいけない情報、乗り換える条件。この3つを言葉にして、AIに質問させながら仕上げます。並行して、守りの一覧を作っておきます。点検そのものは、まだ頼みません。一覧があれば、新しいモデルが本当に出た日に、その紙と一覧を渡すだけで試せるからです。
乗り換えるかどうかは、そのときに紙を見て決めれば間に合います。もし紙に照らして今のAIで足りるなら、乗り換えない。それも立派な判断です。
新しい名前が出た日に、道具ではなく、自分の基準を整える。僕は、それがいちばん遅れない進め方だと判断しています。


