「AIがAIを賢くする」話を、自分の会社の話として読めていますか?
最近、X で「AIがAIを賢くする段階が近い」という話題が大きく広がっています。
Anthropicが、社内の見積もりから、AI自身がAIの進歩を大きく速める段階の基準に、近いうちに届くかもしれないと示したと伝えられています。別の投稿では、MITの研究者が大きなモデルを使って、小さなモデルの重み(AIの中にある、答えの出し方を決める無数の数値)のごく一部を直接書き換え、数学の正答率を大きく上げたと紹介されました。OpenAIのサム・アルトマン氏も、AIがホワイトカラー(事務や企画など、机に向かって行う仕事)の多くをこなす段階に来た、という趣旨の発言をしたと伝えられています。
少し前までSFの中にあった「AIが自分で自分を良くする」という話が、企業の見通しや研究の数字として出てきました。驚きと不安が同時に広がるのは自然なことです。
ただ、40〜50代の経営者や個人事業主の方がつまずいているのは、もっと手前の場面だと僕は見ています。ChatGPTやClaudeを触ってみた。便利だった。それでも、仕事の中身は先月と変わっていない。そこへ「AIがもっと速く賢くなる」という知らせが届くと、「どうせ追いつけないなら、もう少し様子を見よう」と手が止まってしまいます。
僕はここが分かれ道だと考えています。進歩が速くなるほど、待つ人と動く人の差は、使っている道具の差ではなくなります。「何をAIに任せるかを、決め直す習慣」があるかどうかの差になるのです。
この記事では、進歩がさらに速くなる前提で、会社の側が何を固め、何を固めずにおくのか?その分け方と、今日そのまま試せる見直しの手順をお渡しします。
固めるのは判断基準、固めないのは道具に合わせた細かいルール
先に、僕の判断の根拠をお話しします。
講義の第2回で、判断基準の置き場所について話しました。判断基準は土台で、事業はその上で動くアプリです。iPhoneのOS(土台になる基本の仕組み)がなければ、どんなに優秀なアプリも動きません。会社も同じで、土台の基準が1つ決まっていれば、その上に何を載せてもぶれにくくなります。
これをAIの進歩に当てはめてみます。AIのモデルや道具は、アプリの側です。半年もすれば、名前も機能も入れ替わっているでしょう。一方で「お客様に何を約束するのか」「迷ったときにどちらを選ぶのか」という基準は、AIがいくら賢くなっても入れ替わりません。
だから、固めるものと固めないものを分けます。固めるのは判断基準。固めないのは、今の道具に合わせた細かい社内ルールです。「このAIにはこの書式で頼む」「この画面のこのボタンは押さない」といった決まりを何十項目も作り込むと、道具が変わった日にまとめて古くなります。進歩が速いほど、作り込んだ分だけ手直しの手間が増えていくわけです。
AIに渡すものは、3段で考えると整理しやすくなります。いちばん下に目的・価値観・判断の基準。その上に、仕事や商売の文脈という前提。いちばん上に、うまくいった手順を型にしたもの。下の段ほど長持ちし、上の段ほど入れ替わります。手間をかけて固めるのは、下の段です。
もう1つ、講義の第3回で話したことがあります。工場で生まれた世界的な経営の考え方を「工場の話だから自分には関係ない」と読み飛ばすのは誤解だ、という話です。仕事のやり方として読み替えれば、知識労働にもAI活用にも使えます。
今回の話題も同じ構図です。「AIがAIを賢くする」は研究所の話に見えます。けれど読み替えれば、自分の会社で任せられる仕事の範囲が、これまでより速く広がっていくという意味になります。
今日そのまま試せる「任せる仕事の一覧」の見直し5手順
ここからは、今日のうちに始められる手順です。
1. 見直しの日を、半年ごとにカレンダーへ2つ入れる
中身より先に日付を決めます。日付のない見直しは、忙しい月に後回しになりがちです。
2. 判断基準を3行で書く
立派な文章でなくて構いません。「迷ったらどちらを選ぶか」を3行にします。事業ごとに分けず、土台を1つにしてください。書けたら、仕事以外の場面、たとえば家庭の判断に当てはめてもぶれないかを確かめます。ぶれるなら、まだ土台になっていません。
3. 毎週している仕事を、1行に1つずつ書き出す
見積もり、請求、メールの返信、会議の記録。思いつくまま並べます。
4. 次の指示文で、AIに仕分けてもらう
そのままコピーして、【】の中だけ書き換えてください。
――ここから――
あなたは、この会社の業務を見直す担当です。
最初に、この会社の判断基準を伝えます。
【判断基準】(3行)
次に、毎週している仕事の一覧を渡します。
【仕事の一覧】(1行に1つ)
それぞれの仕事を、次の3つに分けてください。
A:今のAIに任せられる
B:AIと一緒に作れば早くなる
C:まだ人がやる
分けた理由を1行ずつ添えてください。
Cの中で、半年後にAかBへ移りそうなものには★を付けてください。
判断基準に合わない任せ方は、理由を書いて外してください。
――ここまで――
5. 小さく任せ始め、道具の決まりは1枚に収める
「A」になった仕事から、小さく任せます。最初は消えても困らない1つのフォルダからにし、指示文には「削除せず移動」の一言を足します。道具ごとの細かい決まりは紙1枚に収め、それ以上は作り込みません。
余裕があれば、もう1つ。気になっている経営の考え方を1つ選び、「(考え方の名前)を、知識労働とAI活用の文脈で解説して」とAIに頼んでみてください。業界が違うという理由で手放していた知恵が、仕分けの物差しとして戻ってきます。
僕なら、道具より先に「見直す日」を決めます
AIがAIを賢くする段階が本当にいつ来るのか、正確に言える人はいません。伝えられている見積もりや発言も、見通しの1つです。ただ、進歩の速さが今より落ちると考える材料は、僕には見当たりません。であれば、速くなる前提で備えておく方が、手戻りは小さく済みます。
僕なら、今日まず2つの日付をカレンダーに入れます。次に、判断基準の3行を書きます。新しい道具の比較や新機能の追いかけは、その後で十分です。
僕はエンジニア経験ゼロから、AI経営本部を48時間で組み上げました。本や動画で学んだのではなく、自分で設計図を書いて組んだものです。振り返ると、短い時間で組めたのは道具に詳しかったからではありません。何を任せ、何を自分で決めるのかを、言葉にできていたからです。講義で繰り返し話しているとおり、レベル1・2(聞く・一緒に作る)からレベル3以上(任せる・連携させる・自律させる)へ上がる段差を越える根っこは、道具の知識ではなく言語化の力にあります。
AIが速く賢くなるほど、言葉にした判断基準の値打ちは上がっていきます。基準を持たない会社では、賢いAIほど、あちこちの方向へ走り出します。基準を持つ会社では、同じAIが、同じ方向へ速く進みます。差を生むのはAIの性能ではなく、土台の側です。
AIは、使うものではなく、育てるもの。育てる側の土台が決まっていれば、次にどんなAIが出てきても、慌てて社内ルールを書き直さずに済みます。変えるのは、一覧の仕分けだけです。
半年後の見直しの日、一覧の「C」のうち、★を付けた仕事がいくつ「A」や「B」に移っているか?僕はそれを数えるところから、次の半年の任せ方を決めます。


