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YouTube解説2026年11月5日

TSMCが米国に2,650億ドル 台湾を出ていく? 最新の工場はどこに残る?

TSMCは、アメリカのアリゾナ州の砂漠に、最初の計画の22倍となる2,650億ドルを投じます。台湾の会社が、なぜこれほどアメリカにお金を投じるのか? 台湾に来ている僕が、TSMCを10年の目で見る急所を考えます。

この記事の結論

結論を先に3つお伝えします。1つ目。アメリカの工場は、台湾の置き換えではありません。止まらないための備えです。

2つ目。最新の技術は、まず台湾で立ち上げます。アメリカは「1歩遅れの最先端」です。

3つ目。2,650億ドルの元が取れるかは、工場が埋まり続けるかで決まります。最後に、TSMCを10年見るときの、いちばん大事な1点もお伝えします。

砂漠に2,650億ドル、何をつくっているのか?

エヌビディアのAIの半導体も、iPhoneの頭脳も、その多くをつくっているのがTSMCです。自分の名前の製品は持たず、お客さんが設計した半導体を、注文を受けてつくります。たとえるなら、一流の料理人がレシピを持ち込む、世界一腕のいい厨房です。

そのTSMCがアリゾナで工場の街づくりを始めたのは2020年。このときの計画は120億ドルでした。それが今年7月、合わせて2,650億ドルまで増え、工場や研究所は全部で12か所になります。

最初の工場は2024年の終わりから量産を始め、2つ目は建物ができていて2027年に量産の予定です。7月には、いちばん進んだ技術の工場をさらに4つ増やすと発表しました。計画の多くはまだ建っていません。今のAIブームではなく、何年も先のお客さんに向けた賭けです。

なぜアメリカに建てるのか?

きっかけの1つは、コロナのころの半導体不足です。車の工場が部品不足で止まり、たどっていくと、最先端の半導体のほとんどが1つの島でつくられていました。お客さんから見れば、大きな不安です。

2つ目は、お客さんの場所です。エヌビディア、アップル、AMDと、大口のお客さんの多くはアメリカの会社です。

3つ目が関税です。今年1月、アメリカと台湾は貿易の取り決めを結びました。最先端の半導体には関税をかける一方、アメリカに工場を建てる会社は関税が軽くなる仕組みです。

ここで勘違いしやすいのは、アメリカの工場は台湾の代わりではない、という点です。台湾に何かあっても全部は止まらない。そのための備えです。日本の熊本、ドイツのドレスデンにも工場を広げています。

台湾をそのまま写せない

TSMCの強さは、台湾の工場をそっくり写して増やせることにあります。同じ機械、同じ手順、同じ材料で、同じ品質の半導体をつくる。工場の腕を決めるのは歩留まり、つまり1枚の円い板から取れる良い半導体の割合です。わずかなちりや材料の違いでも、良い半導体は減ってしまいます。

ところがアメリカでは、この「そっくり写す」が難しいんです。台湾では工場のまわりに薬品や部品の会社が長い時間をかけて集まっていますが、アメリカではその集まりを一から育て直すことになります。人を集めるにも、建てる許可を取るにも時間がかかり、その分費用も高くなります。会社自身も、海外の工場が利益率を押し下げると説明しています。

最新の工場は台湾に残る

では、TSMCは台湾を出ていくのか? 僕は、そうは見ていません。

いちばん新しい2ナノメートルの量産は、去年の終わりに台湾の新竹と高雄の工場で始まりました。アリゾナで量産しているのは、今のところ2ナノより前の世代です。すべての工場ができても、アリゾナは2ナノ以降の生産能力の3割ほど。残りの大部分は台湾に残ります。

新しい技術を生み、最初に立ち上げる場所は台湾。それが安定したら、アメリカにも持っていく。台湾に残るのは「最初の1歩」、アメリカに出すのは「1歩遅れの最先端」です。

なお、水が貴重な砂漠という心配には、使った水を半導体用にきれいにし直す工場で手を打っています。動き始めは85%を再利用し、90%以上を目指すとしており、完成は2028年の予定です。それでも工場が増えれば、水の心配はついて回ります。

今のTSMCの稼ぐ力

10月15日の決算で、7月から9月の売上は467億ドル。ドルで見て前の年より41%増え、7月に出した見通しの上限458億ドルを上回りました。

営業利益率、つまり売上のうち利益として残る割合は59%ほどです。ものづくりの会社で売上の6割近くが利益に残るのは、ほかに代わりがいない会社でなければ出せない数字です。売上の6割超は3ナノと5ナノの新しい技術で、いちばん新しい2ナノも8%まで増えてきました。AIの半導体の注文が、新しい技術に集中しているということです。

元は取れるのか? 5年後・10年後のTSMC

2,650億ドルは答えではなく、問いの大きさです。分かれ目は3つあると僕は見ています。1つ目は、何年も先に工場ができたとき、AIの注文が続いて工場が埋まり続けるか? 工場は空いていても、機械や人の費用がかかり続けます。2つ目は、アリゾナの工場が台湾に近い効率で動けるか? 3つ目は、お客さんがアメリカ製に、少し高くても払い続けるか?

会社の努力では決められないこともあります。10月1日、東沙諸島の近くで、台湾の沿岸警備の船が中国の漁船に放水し、中国は強く反発しました。台湾をめぐる緊張はゼロにはなりません。だからこそ、お客さんはアメリカの工場にお金を払う、とも言えます。

5年後、2031年ごろ。最先端の工場は建てるのにも人を育てるにも何年もかかります。エヌビディアが勝ってもAMDが勝っても、つくるのはTSMC。この形は5年では変わりにくいと見ています。10年後、2036年ごろは分かりません。アリゾナの工場が埋まって台湾並みに稼げているか? 台湾海峡の緊張はどう動いているか? この2つで景色は大きく変わります。

強気の見方と弱気の見方

強気の見方。売上は4割を超えるペースで伸び、営業利益率は59%ほど。最新の技術は台湾で最初に立ち上がり、お客さんはTSMCを選び続けています。

弱気の見方。アメリカの工場は費用が高く、利益率を押し下げます。工場ができるころにAIへの投資が止まれば、工場が埋まりません。

僕の見立てが崩れるのは、大手のクラウドの会社がデータセンターへの投資を減らし始めたとき。アメリカの工場が増えるにつれて会社全体の利益率が下がり続けたとき。最新の技術でほかの会社が追いつき、大口の注文が移り始めたときです。どちらに転ぶかは、今日の時点では誰にも分かりません。

まとめ

TSMCはアリゾナに、最初の計画の22倍、2,650億ドルを投じます。でもそれは台湾の置き換えではなく、止まらないための備えです。最初の1歩は台湾で、1歩遅れの最先端をアメリカへ。

TSMCを5年後・10年後の目で見るとき、いちばん大事なのは、世界に広がった工場が埋まり続け、利益率がどれだけ残るのか?という点です。台湾から語った動画では、アリゾナの工場の進み具合や歩留まりの話を、さらに詳しくお話ししています。あわせてご覧いただくと、より深く分かると思います。

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