歩ける3D空間に驚いた後、手が止まる理由
Xで、GoogleのGenie 4の話題が大きく伸びています。
Genie 4は「世界モデル」と呼ばれるAIです。世界モデルとは、文章で指示するだけで、ゲームのような3D空間をその場で作り、その中を歩き回れるようにする仕組みのことです。音も一緒に生成され、作った後から指示を足して中身を変えられるとされています。短い文章から、動く世界がすぐに立ち上がる。その様子を映した動画を見た人の驚きが、そのまま広がっています。
ただ、ここで多くの経営者の手が止まります。
「すごいのは分かった。で、うちの仕事にどう関係するのか?」
この問いに答えが出ないまま、次の新しいニュースに目が移っていく。AIを触ってはいるのに、仕事は何も変わっていない人によくある流れです。
しかも、Genie 4はまだ誰でも使える段階ではありません。まず一部のテスター向けの研究プレビューとして出て、その後、Google AI Ultraの契約者や、Gemini API・AI Studio経由で提供される予定と書かれています。今日いきなり業務に入れられる道具ではない、ということです。
では、使えるようになるまで待てばよいのでしょうか?
僕の答えは逆です。派手な道具ほど、届いた日に何を作らせるかが決まっていないと、触って驚いて終わります。家を建てる人が、大工さんを呼ぶ前に間取りを考えるのと同じで、始めるなら道具の手前からです。
その手前とは、自社で「見せたいのに、作るのが高い映像」を書き出しておくことです。店舗や施設の完成イメージ、新人研修で見せたい場面。費用や手間を理由に、今はあきらめているもの。これが一覧になっていれば、世界モデルが届いた日に、試す順番はもう決まっています。
この記事では、その一覧をAIと一緒に今日作る方法をお渡しします。
先に表、あとで実行。講義で伝えている順番
AIの新しい道具が出たとき、仕事に効く順番を、僕はこう考えています。
見せたい場面を書き出す
↓
自分の判断基準で順番をつける
↓
道具が届いたら、上から試す
多くの人は、3段目から入ります。道具を開き、何を作るかを考えながら触る。すると「面白いもの」は作れても、「仕事に要るもの」にはなかなか届きません。
この順番は、第1回の講義でお伝えした話と同じ根っこです。ファイルの名前をAIにまとめて変えてもらうとき、指示文に「変更前後の対照表を作成してから実行してください」と1行足す。表を先に出させ、気になる行だけ直してから実行すれば、元の名前を失いません。いきなり実行させると、何がどう変わったのかを後から追えなくなります。
映像づくりも同じ構造です。世界モデルに何を作らせるかの表が先にあれば、届いた日に迷わない。表がなければ、どれだけ優れた道具でも、試しては忘れるの繰り返しになります。
もう一つ、表に順番をつけるための物差しが要ります。第2回の講義では、判断基準を土台、事業をその上に載るアプリにたとえました。iPhoneのOSがなければ、どんな優秀なアプリも動きません。僕のように物販・飲食・情報・サービスと4つの事業があっても、事業ごとに別々の基準を作らず、土台となる基準を1つ決める。これが講義の考え方です。
映像の一覧も、この土台で並べます。「見栄えがする順」ではなく、自社の判断基準に照らして「作れたら困りごとが一番減る順」にする。基準が1つに決まっていれば、並べ替えで迷うことはありません。派手さに引っぱられず、自分の商売に効くものが自然と上に来ます。
今日そのまま試せる「高い映像」の書き出し手順
ここからは、今日そのまま試せる手順です。使うAIは、ChatGPT、Claude、Geminiのどれでもかまいません。Genie 4が手元になくても、一覧づくりは今日できます。
手順1。AIを開き、下の指示文をそのまま貼ります。[ ]の中だけ、自社の言葉に書き換えてください。
(指示文1)
あなたは、うちの会社の映像づくりの相談役です。
うちの会社は[業種と事業の内容]で、主なお客様は[客層]です。
「見せたいのに、作るのが高い・手間がかかるので、あきらめている映像や場面」を書き出したいです。
1. まず質問を5つまでして、見せたい場面を聞き出してください。
2. 答えをもとに、次の列の表を作ってください。
場面/誰に見せるか/今はどう代わりにしているか/作れないと困ること/3D空間を歩き回れたら役立つか(○・△・×)
3. 表を作成してから、次の作業に進んでください。表を出したら止まり、こちらの確認を待ってください。
手順2。AIからの質問に答えます。店舗や施設の完成イメージ、研修で見せたい場面など、思いつくものを短く返せば十分です。
手順3。表が出たら、気になる行だけ直します。対照表の話と同じで、ここで人の目を一度通すのが肝心です。
手順4。続けて、次の指示文を貼ります。
(指示文2)
この表を、次の判断基準で並べ替えてください。
判断基準:[例:お客様の不安が減るか/社員が迷わず動けるか]
上から順に、並べた理由を1行ずつ添えてください。
上位3つに印をつけ、それぞれ「どんな場面を、誰の目線で見せたいか」を3行の文章にしてください。
手順5。上位3つの文章を、メモに保存しておきます。この3行が、世界モデルを使えるようになった日に渡す、最初の指示文の下書きになります。
僕なら、飲食の事業で新人に見せたい場面から書き出します。言葉では伝わりにくく、動画を撮るにも手間がかかる場面ほど、表の上のほうに来るはずです。
僕なら、道具が届く前に表を1枚作っておく
Genie 4の話題は、短い文章から歩ける世界ができる驚きで広がりました。ただ、経営者にとって大事なのは、驚いた後の一手です。
僕はエンジニア経験ゼロです。それでもAI経営本部を48時間で組めたのは、道具の使い方を本や動画で覚えたからではありません。自分で設計図を書き、何を任せるかを先に決めてから組みました。新しい道具が出るたびに思い出すのは、このときの順番です。
AIは、使うものではなく、育てるもの。講義では、AIに渡すものを3段で考えます。目的や判断の基準、仕事や商売の文脈、そしてうまくいった手順です。今日作る表は、このうち判断の基準と仕事の文脈を、1枚にまとめたものになります。世界モデルに限らず、次にどんなAIが出てきても、この表はそのまま渡せます。
そして、まだ研究プレビューの段階にある道具を、今から追いかけ回す必要はありません。発表の動画を何本も見るより、自社の「見せたいのに作れない映像」を書き出しておくほうが、手元にずっと残ります。道具が届いたとき、その表がある会社とない会社では、最初の1週間の使い方がまるで違ってくるでしょう。
派手な発表があった日は、置いていかれる気がして焦るものです。けれど、焦って道具に飛びつく必要はありません。手前の準備ができていれば、届いた日から自分の商売に効く順番で試せます。
僕なら、Genie 4のニュースを見た今日のうちに、指示文1と2で表を作り、上位3つの文章を保存しておきます。かかる時間は、質問に答える分を入れても長くはありません。大きなニュースの日を、驚いて終わる日ではなく、自社の映像の表を1枚作る日にする。それが僕の判断です。


