「何人減らせるのか?」から始まる会議が止まる理由
X で、ある大手SNS企業のトップが数年前に話した言葉が、改めて広く出回っています。ライバル企業が人員と管理職を大きく減らしたことを評価する発言です。同じ流れの中で、AIを自在に使う若い世代に驚く声や、「AIそのものより、AIで他人の足を引っ張る人のほうが怖い」という短い意見も伸びています。
AIで組織が小さくなっていく。そのことへの期待と不安が、同時に揺れているのだと受け止めています。
経営者の方なら、こんな場面に覚えがあるはずです。会議でAIの話題が出る。担当者が資料を読み上げる。最後に誰かが「で、これで何人減らせるのか?」と口にして、場が静まる。
この問いから入ると、話はたいてい止まります。減らされるかもしれない側は黙ります。減らす側も、AIに何を任せるのかを言葉にできていません。人数という数字だけが先に歩き、仕事の中身が置き去りになります。
僕は、この順番を逆にします。人の話をする前に、仕事の流れを書き出す。とくに、その流れの中で「管理だけ」「取り次ぎだけ」をしている層がどこにあるのかを、一度、紙の上に出してみる。人を外すかどうかを決めるのは、その後です。
なぜ今それが大事なのか? AIに仕事を「任せる」段階に進むほど、流れが言葉になっていない会社は、AIにも人にも同じ指示を出せなくなるからです。指示がそろわなければ、AIを入れても確認と伝言の手間は残ります。
この記事では、その書き出しの考え方と、今日AIにそのまま頼める指示文を2本お渡しします。
「自分が速くなる」と「組織が変わる」の間にある段差
僕は講義で、AIの活用をレベル1から5に分けて話しています。レベル1・2は、AIに聞く、AIと一緒に作る段階。レベル3から5は、任せる、連携させる、自律させる段階です。この1・2と3以降の間に、大きな段差があります。
もう一つ、講義で強調しているのが、レベル3から4へ上がるときの壁です。中身をひと言でいえば、「個人の効率化」から「組織設計」への転換です。自分の仕事がAIで速くなるところまでは、一人で行けます。ところが、AIどうしを連携させて仕事をつなぐ段階に入ると、「誰が何を受け取り、何を判断し、誰に渡すのか」という流れそのものを描き直す必要が出てきます。
ここで効くのは、道具の知識ではありません。狙ったことを文章にする力、つまり言語化の力です。AIに渡すものには3つの段があります。最初に、目的や判断の基準。次に、仕事や商売の文脈(前提)。最後に、うまくいった手順(型)。この順で渡すと、AIの判断がぶれにくくなります。
では、管理や取り次ぎだけの層は、なぜ生まれるのでしょう。僕は、言語化が足りない部分を、人が埋めている場所だと見ています。判断の基準が書かれていないから、確認する人が要る。手順が書かれていないから、伝言する人が要る。その人が悪いのではなく、流れが言葉になっていないことの結果です。
だから、人を減らすかどうかの前に、流れを言葉にします。言葉になれば、AIに渡せる部分と、人が判断すべき部分の境目が見えてきます。境目が見えないまま人数だけを決めると、確認と伝言の仕事は消えずに、残った人の肩に乗るだけです。
人数は、その境目が見えた後に、ようやく話せる数字になります。
今日そのまま試せる、流れの書き出し3ステップ
手順1:繰り返し発生する業務を1つだけ選びます。見積もりから請求まで、問い合わせから返信まで、など何でも構いません。最初は、止まっても大きく困らない業務がおすすめです。その流れを、思いつく順に箇条書きで書き出します。きれいに書く必要はありません。
手順2:書き出した箇条書きと一緒に、次の指示文をAIに渡します。
【指示文1(そのままコピーできます)】
あなたは業務の流れを整理する担当です。
目的は、人を減らすことではなく、仕事の流れを短くすることです。
これから、ある業務の流れを箇条書きで渡します。
各工程を「作る」「判断する」「管理だけ」「取り次ぎだけ」の4つに分け、表にしてください。
表の列は「工程」「担当の役割」「何を受け取るか」「何を渡すか」「分類」です。
個人の名前や評価は書かず、役割の名前で書いてください。
分類に迷う工程は、迷った理由を一言添えてください。
手順3:出てきた表を見たうえで、続けて次の指示文を渡します。
【指示文2(そのままコピーできます)】
いまの表をもとに、流れを変えた後の案を作ってください。
ただし、すぐに結論を出さず、変更前後の対照表を作成してから提案してください。
対照表の列は「変更前の工程」「変更後の工程」「AIに任せる部分」「人が判断する部分」「変えたときに困る場面」です。
工程は削除せず、「AIへ移す」「人に残す」「まとめる」のどれかで示してください。
この「対照表を先に出させる」頼み方は、講義の第1回で話した、ファイル名の一括変更のコツと同じ考え方です。リネームを頼むとき、「変更前後の対照表を作成してから実行してください」と一行足す。表を見て気になる行だけ直してから実行すれば、元の名前を失いません。
仕事の流れも同じです。いきなり変えるのではなく、変える前と後を並べて見る。表を見て、引っかかる行だけ直す。指示文2で「削除せず」と書いたのは、消した工程に実は大事な判断が隠れていた、ということを避けるためです。
僕なら、人数の話は最後の最後に回す
X で広がった人員削減の話は、どうしても数字のほうが目立ちます。けれど、組織が小さくなるかどうかは結果であって、入口ではありません。入口は、仕事の流れを言葉にし、AIに渡せる部分と人が判断する部分を分けることです。
もう一つ、伸びていた短い意見にも触れておきます。AIより、AIで他人の足を引っ張る人のほうが怖い。これは流れの書き出しにも、そのまま当てはまります。表を「誰が無駄か」を探す道具にした瞬間、社内の誰も本当の流れを書かなくなります。指示文1に「個人の名前や評価は書かない」と入れたのは、そのためです。
僕はエンジニア経験ゼロのまま、自分で設計図を書き、48時間でAI経営本部を組み上げました。いまは物販・飲食・情報・サービスの4事業を回しています。その立場から言えるのは、設計図のない仕組みはAIに渡せない、ということです。
僕なら、こう進めます。まず、止まっても困らない業務を1つだけ選ぶ。次に、今日の指示文で流れを表にし、変更前後の対照表を作らせる。表を見て、気になる行だけ直す。そして人数の話は、その表が何枚かたまってから、最後の最後に回します。
「AIは、使うものではなく、育てるもの」。講義で繰り返している言葉ですが、組織も同じだと僕は考えています。流れを言葉にするたびに、AIに渡せる仕事が増え、人は本来の判断に戻れます。
会議で「何人減らせるか?」と聞く前に、まず1枚の表を作る。僕なら、次の会議には人数の資料ではなく、その表を1枚だけ持っていきます。


