映画「マネー・ショート」で知られる投資家マイケル・バーリが、「今のAIはバブルだ」と警告を続けています。その根拠の中心は、AIの需要ではなく会計、つまり減価償却でした。米国株を長期の資産運用として続け、会社の経営もしている僕の立場から、この警告が5年後・10年後にどう試されるのか? を考えます。
この記事の結論
結論を先に3つお伝えします。1つ目。マイケル・バーリの「AIバブルは弾ける」という警告の根拠は、AIの需要ではありません。「AIの半導体は、何年使えるのか?」という会計の問題です。
2つ目。バーリは、大手のIT企業が半導体やサーバーの寿命を長めに見積もり、費用を少なく見せていると主張しています。その額は、2026年から2028年の3年で約1,760億ドル。ただし強い反論もあり、まだ決着はついていません。
3つ目。この問いの答えは、これから5年の決算に数字で出てきます。見るべきは株価の上下ではなく、減価償却という費用が売上より速いペースで増えていくのか? という点です。
バーリが言っていること
バーリは、2008年のリーマン・ショックの前にアメリカの住宅バブルの崩壊を見抜き、大きな利益を上げた人です。そのバーリが、去年の秋から「今のAIはバブルだ」と警告しています。
主張は大きく2つです。1つ目は、今のAIが1990年代の終わりの通信バブルに似ているということ。当時はインターネットのために光ファイバーが大量に敷かれ、通信機器を売って大きく伸びたのがシスコでした。バーリは「今のシスコは、エヌビディアだ」と書いています。
2つ目が会計の問題で、ここがこの記事の中心です。マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ、オラクルといった大手が、AIの半導体やサーバーの寿命を長めに見積もることで、利益を実際より大きく見せている、という主張です。
減価償却をトラックで考える
会社が配送用のトラックを600万円で買い、6年使うつもりなら、毎年100万円ずつを費用にしていきます。これが減価償却です。
もし本当は3年で使えなくなるのに、6年使えることにしていたら、どうなるでしょうか? 本来は毎年200万円の費用が100万円で済み、その分だけ利益が大きく見えます。そして3年後、まだ費用にしていない分を、まとめて損として計上することになります。
バーリが言っているのは、これと同じことです。AIの半導体は1年から2年ごとに新しい世代が出てきます。実際の寿命は2年から3年ではないか? それなのに各社は5年から6年で計算している、というわけです。バーリの試算では、2028年にはオラクルの利益が約27%、メタの利益が約21%、実際より大きく見えるとしています。
各社は本当に寿命を延ばしてきたのか?
これは各社の決算の資料にはっきり書かれています。マイクロソフトはサーバーの寿命を4年から6年に延ばしました。アルファベットも2023年に4年から6年へ。メタは2025年から5年半に延ばしています。
一方でアマゾンは逆に、一部のサーバーの寿命を6年から5年に縮めました。理由は、AIの技術の進み方が速くなったからだと説明しています。
寿命を延ばしてきたのは事実で、さらに大手の1社がAIを理由に縮め始めた。ここは、バーリの主張を支える材料の1つです。
大きく見える数字と、実際に払った金額
バーリのファンドは去年の9月末の時点で、パランティアとエヌビディアの株価が下がると利益が出る「プット」という権利に賭けていました。報道では「11億ドル以上の賭け」と伝えられましたが、これは権利の対象になる株の金額です。バーリ自身は、パランティアのプットに実際に払ったのは920万ドルだと説明しています。
見出しの数字と、実際に払ったお金はまったく違います。そしてバーリは去年の11月に自分のファンドを閉じ、今は自分の文章を有料で配信しながら警告を続けています。
反論も、ちゃんとある
エヌビディアは去年の11月、アナリストに向けた文書で「AIの半導体の実際の寿命は4年から6年だ」と反論しました。何年も前に出た古い世代の半導体も、今もほぼフル稼働で使われている、というのです。
AIの使い道は、新しいAIを育てる仕事だけではありません。できあがったAIを動かす仕事にも、たくさんの半導体が要ります。古い半導体はそちらに回して使い続けられる、という考え方です。パランティアのアレックス・カープCEOも、バーリの賭けを強い言葉で批判しました。
そしてバーリ自身も、いつも当たってきたわけではありません。2023年には、自分で「売れと言ったのは間違いだった」と投稿したこともあります。有名な投資家の言葉でも、そのまま信じず、根拠を自分で確かめることが大切です。
5年後・10年後に分かること
僕がいちばん大事だと思うのは、半導体の寿命の問題は意見ではなく、数字で答えが出るということです。
5年後の2031年ごろ、今大手が次々に導入している半導体は、ちょうど5年から6年の寿命の終わりに近づきます。そのときまで稼ぎ続けていれば各社の見積もりが正しく、もっと早く入れ替えていればバーリが正しかったことになります。それは毎年の決算で、減価償却の費用の増え方と、寿命の見積もりを縮める会社が出てくるのか? に表れます。
10年後の2036年ごろに問われるのは、AIへの投資が、費用を差し引いても現金を残す事業になったのか? です。僕はAIの需要そのものは本物だと見ています。足りていないのは、半導体よりむしろ電気です。ただ、需要があることと投資が報われることは別の話で、供給が足りないことはバブルでないことの証明にはなりません。
強気の見方と弱気の見方
強気の見方です。エヌビディアによれば、古い世代の半導体も今もほぼフル稼働です。AIを動かす仕事が増えれば、古い半導体にも使い道が残ります。大手は本業で大きな現金を稼いでいて、費用が増えても耐える体力があります。そして、バーリの予言はいつも当たってきたわけではありません。
弱気の見方です。大手は寿命の見積もりを延ばしてきて、その分、利益は大きく見えています。アマゾンはAIの進み方を理由に寿命を縮め始めました。新しい世代の半導体は1年から2年ごとに出てくるので、古い半導体の価値が思ったより早く下がるおそれがあります。設備への投資は今も増え続けていて、その費用はこれから何年もかけて利益に降りてきます。
どちらに転ぶかは、今日の時点では誰にも分かりません。
見立てが崩れる条件
僕は今、「需要は本物、ただし半導体の寿命は、まだ誰も確かめていない」と見ています。
この見立てが崩れるのは、3つの場面です。大手がそろって半導体やサーバーの寿命の見積もりを縮め始めたとき。これはバーリの主張に近づきます。逆に、5年たっても古い半導体が高い値段で貸し出され、稼ぎ続けていたとき。これは各社の見積もりが正しかったことになります。そして、減価償却の費用が売上より速いペースで増え続けたときです。
決算のたびに、この3つを確かめていきます。
まとめ
マイケル・バーリの「AIバブルは弾ける」という警告の中心は、需要ではなく会計でした。各社は寿命を延ばして利益を大きく見せている、とバーリは主張し、その差を2028年までの3年で約1,760億ドルと試算しました。一方でエヌビディアは、実際の寿命は4年から6年だと反論しています。
大事なのは、有名な投資家の言葉をそのまま信じることでも、笑い飛ばすことでもありません。答えは、これから5年の決算に数字で出てきます。株価の上下ではなく、減価償却という費用がどう増えていくのか? 僕はそこを見ていきます。
動画では、トラックのたとえや各社の寿命の変化を、順を追ってお話ししています。あわせてご覧いただくと、より深く分かると思います。


