あなたは今、自分がどこに立っているか正確に言えますか。
漠然とした自己認識ではなく、具体的に。
何ができて、何ができないのか。
どこまでは確実で、どこからは不確かなのか。
この問いに即答できる人は、僕の経験上、驚くほど少ないです。
多くの人は、自分の能力を過大評価しているか、過小評価しています。
ちょうど真ん中に立っている人は稀です。
そして厄介なことに、どちらの誤認も同じ結果をもたらします。
次のステップを間違えるのです。
過大評価している人は、準備が足りないまま大きな挑戦に飛び込みます。
過小評価している人は、十分な力があるのに小さな場所に留まり続けます。
どちらも、現在地の誤認から始まっています。
あなたがもし、何か新しいことを始めようとしているなら。
最初にやるべきことは、目標を設定することではありません。
現在地を正確に把握することです。
地図アプリを開いたとき、目的地を入力する前に何が必要ですか。
現在地の特定です。
GPSが自分の位置を捉えられなければ、どんなに正確な地図があっても役に立ちません。
目的地がどれほど魅力的でも、出発点がわからなければルートは描けません。
人生も同じ構造を持っています。
僕自身、この現在地の誤認で何度も痛い目に遭ってきました。
自分では「できている」と思っていたことが、実は全くできていませんでした。
逆に、「自分には無理だ」と思い込んでいたことが、やってみたら意外とできました。
どちらの経験も、現在地を正しく認識していなかったことに起因しています。
セミナーで何かを学んだ後、多くの人は「次に何をすべきか」を考えます。
でも本当に考えるべきは「今の自分は何ができる状態なのか」です。
この順序を間違えると、学んだことが宙に浮いたまま着地しません。
あなたの中に、自分の現在地に対する曖昧さはありませんか。
「たぶんできる」「なんとなくわかる」。
そういう言葉で自分を誤魔化していませんか。
比較の中で、自分の輪郭は溶けていく
バンダイに勤めていた頃、僕は自分の営業力にある程度の自信を持っていました。
数字も出していたし、クライアントとの関係も良好でした。
少なくとも自分ではそう思っていました。
ところがある時、別の部署の同僚の仕事ぶりを間近で見る機会がありました。
彼の営業スタイルは僕とは全く違っていました。
僕が三回の商談で詰めていた案件を、彼は一回で決めてきます。
僕が「関係構築」と呼んでいたものが、実は単なる「決断の先延ばし」だったことに気づかされました。
彼は商談の冒頭で、相手の本当の懸念点を的確に突いていました。
僕が表面的なニーズだけを拾っている間に、彼は相手の言葉の裏にある本音を読み取っていたのです。
同じ時間、同じクライアント、同じ条件なのに、結果が全く違う。
その差を目の当たりにしたとき、胸の奥がざわつくような感覚がありました。
あの瞬間、僕の現在地認識は大きく書き換えられました。
自分は「できる側」にいると思っていました。
でも実際は「まあまあの位置」にいただけでした。
会社という環境は、現在地の認識を歪ませる構造を持っています。
周囲との相対評価の中で、自分の位置が決まります。
でもその「周囲」自体が、世の中全体から見れば偏ったサンプルです。
僕は1日10時間以上拘束され、上下左右の人間関係のバランスに消耗し、部会・課会・報告会のための大量の社内資料を作成する日々を送っていました。
働くほど書類作業が増えるという構造的な矛盾の中で、「自分は頑張っている」という感覚だけが肥大化していました。
でも「頑張っている」と「成果を出している」は、全く別の話です。
比較対象が限定されると、現在地の認識は必然的に歪みます。
社内で上位にいることと、市場で価値を持つことは違います。
この区別ができないまま時間が過ぎると、ある日突然、自分の現在地が思っていた場所と全く違うことに気づかされます。
あなたの現在地認識は、何を基準にしていますか。
その基準自体が、狭い世界の中だけで通用するものではありませんか。
ゼロという現在地が、最短距離を教えてくれた
エンジニア経験ゼロ。
Markdownという記法すら知らない。
プログラミングの基礎知識もない。
48時間でAI経営本部を構築したとき、僕のスタート地点はそこでした。
客観的に見れば、最も不利な位置です。
でも振り返ると、このゼロという現在地を正確に認識していたことが、逆に最大の武器になりました。
なぜか。背伸びする余地がなかったからです。
「少しはわかる」という中途半端な自己認識があると、人は変な近道を探し始めます。
基礎を飛ばして応用に行こうとします。
でも僕には飛ばせる基礎がそもそもありませんでした。
だから最初の一歩から、愚直に積み上げるしかありませんでした。
完全なゼロからスタートすると、何が必要で何が不要かが明確になります。
知ったかぶりをする余裕がないから、わからないことを素直に「わからない」と言えます。
この姿勢が、学習速度を劇的に上げました。
50代という年齢で、若い世代が当たり前のように使いこなしているツールをゼロから学ぶ。
プライドが邪魔をしてもおかしくない状況でした。
でも僕は自分の現在地を正確に把握していました。
だから余計な回り道をせずに済んだのです。
中途半端に「できる」と思っている状態が、実は最も危険です。
本当はレベル2なのに、自分をレベル5だと思っていると、レベル3向けの学習から始めてしまいます。
基礎が抜け落ちたまま先に進むから、どこかで必ず躓きます。
そして躓いたとき、何が原因かわからないまま迷走することになります。
一方、自分をレベル0だと正確に認識していれば、レベル1から始められます。
一見遠回りに見えて、これが最短距離なのです。
現在地を正確に把握するということは、自分の無力さを認めることでもあります。それは痛みを伴う作業です。
でもその痛みを避けて曖昧なまま進むと、もっと大きな痛みが後から襲ってきます。
あなたは今、自分のレベルを正確に把握していますか。
それとも、少し上に見積もっていませんか。
紙とペンだけで見えてくる輪郭
現在地を把握する方法は、実はとてもシンプルです。
紙を一枚用意してください。
真ん中に縦線を引いて、左側に「確実にできること」、右側に「できないこと」と書きます。
そして、思いつく限り書き出してみてください。
このとき大切なのは、正直であることです。
「たぶんできる」は左側に入れません。
「確実に」できることだけを書きます。
逆に右側には、できないことを躊躇なく書いていきます。
誰に見せるものでもないのですから。
見栄を張る必要も、自分を守る必要もありません。
僕自身、定期的にこの作業をしています。
メンターの大富豪から学んだ習慣の一つです。
自分の現在地は、放っておくと勝手に歪んでいきます。
だから意識的に補正をかける必要があります。
紙に書き出すという行為は、その補正作業として極めて有効です。
書き出してみると、意外な発見があるはずです。
「できる」と思っていたことが、実は条件付きでしか成立しないことに気づいたり。
「できない」と決めつけていたことが、単に試したことがないだけだと気づいたり。
頭の中だけで考えているときには見えなかった輪郭が、紙の上に浮かび上がってきます。
僕が初めてこの作業をしたとき、左側に書けることの少なさに愕然としました。
「できる」と思っていたことの多くが、実は「やったことがある」程度のものでした。
でもその事実を直視したことで、次に何を強化すべきかが明確になりました。
現在地がわかれば、目的地までの距離がわかります。
距離がわかれば、必要な時間とエネルギーが見積もれます。
見積もれれば、計画が立てられます。
すべては、現在地の正確な把握から始まるのです。
あなたの違和感の正体は、もしかすると現在地の曖昧さかもしれません。
何かを始めたいのに始められない。
変わりたいのに変われない。
その停滞感の根っこに、自分がどこに立っているのかわからないという不安があるのではないでしょうか。
紙とペンを手に取ってください。
5分でいい。
自分の現在地と向き合う時間を作ってください。
その小さな行動が、次の一歩を照らす光になります。
僕は20年以上、発信を続けてきました。
その間に学んだ最も重要なことの一つが、現在地の把握です。
どこに行きたいかより、今どこにいるか。
その認識の精度が、人生の軌道を決めていきます。
あなたの現在地は、あなたにしかわかりません。